ホーム >> 道弁連大会 >> 平成28年度定期大会決議 >> ヘイトスピーチの根絶に向けての宣言

道弁連大会

ヘイトスピーチの根絶に向けての宣言

 本年5月24日、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(以下「本法」という)が成立した。
わが国内において、特定の人種や民族等に対する差別をあおり、個人の尊厳を傷つけるヘイトスピーチが繰り返されている状況の下、本法は、かかる不当な差別的言動はあってはならず、その解消が喫緊の課題であることを宣言する初めての立法であり、その対象にアイヌ民族などの少数民族が含まれないなど限定的に過ぎることや実効性の担保が十分でないこと等の限界があるとはいえ、制定の意義は大きい。
当連合会は、国と北海道、道内の市町村に対し、「表現の自由」に充分に留意しつつも、ヘイトスピーチの根絶に向けて本法に基づく施策を積極的に講じることはもとより、アイヌ民族をはじめとする国内の少数民族や正式な在留資格が認められていない外国人等をも対象となる被害者の範囲に含めて、より実効的な法令や条例の整備等を検討することを求める。
併せて、道内の弁護士・弁護士会が、本法の制定を契機として、ヘイトスピーチをはじめとする不当な差別と偏見のない社会を実現するため積極的な役割を果たしていくことを、ここに誓うものである。
 以上、宣言する。

2016(平成28)年7月22日
北海道弁護士会連合会

提案理由

  1.  近年、わが国においては、「朝鮮人を皆殺しにしろ」「ゴキブリ、ウジ虫、朝鮮半島へ帰れ」などといった、聞くに堪えない内容のヘイトスピーチが繰り返されており、法務省によれば、2015(平成27)年だけで約250件も確認されたという。
     こうしたヘイトスピーチは、個人の尊厳と法の下の平等を正面から否定し、人種的憎悪と差別を生み出し、ひいてはジェノサイドにもつながっていく危険性をはらんでいるものであるが、わが国においてはこれまで事実上野放し状態で、被害者が事後的な司法的救済を受けられたのは京都朝鮮学校襲撃事件等少数にとどまっている。2014(平成26)年には国連の自由権規約委員会と人種差別撤廃委員会がそれぞれ、わが国におけるヘイトスピーチの蔓延に懸念を示し、日本政府に必要な措置を講じるよう勧告を出している。
  2.  こうした状況を踏まえ、本法は、与党提出の法案が幾つかの修正を経た上全会一致で成立したものであるが、罰則のみならず禁止規定もない理念法であり、地方公共団体の責務も努力義務にとどめられている等、内容的にも不十分な点が見受けられる。
     とりわけ、本法は、「不当な差別的言動」の対象となる被害者の範囲を「本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するもの」(第2条)と定義しており、アイヌ民族をはじめとする国内の少数民族や、正式な在留資格が認められていない外国人等が除外されてしまっている。これまでにも、札幌市議会議員によるアイヌ民族の存在を真っ向から否定する発言が物議を醸し、水平社博物館(奈良県御所市)や在留特別許可を求める少女が通う中学校(埼玉県蕨市)の門前でもヘイトスピーチが行われたことに鑑みれば、このような限定を付すべきではない。衆参両院の法務委員会でも、第2条が規定する言動「以外のものであればいかなる差別的言動であっても許されるとの理解は誤りである」ことを確認する附帯決議がなされたが、より明確な法文上の見直しが必要である。
     とはいえ、本法は、ヘイトスピーチをはじめとする「不当な差別的言動」は許されないと、初めて宣言したものであり、かかる立法が制定された意義は大きい。
  3.  本法により、国と地方公共団体には、ヘイトスピーチ等に関する相談体制の整備、ヘイトスピーチを解消するための教育活動や広報その他の啓発活動等の施策を推進することが責務として課されたのであり、さらに、こうした取組みについては、本法の施行後におけるヘイトスピーチ等の実態等を勘案して、必要に応じた検討が加えられるものとされた。
     国と北海道、道内の市町村は、本法に定められた施策を積極的に推進することはもちろん、ヘイトスピーチに関する実態調査を継続的に実施することが求められる。そして、かかる実態調査の結果を踏まえて、ヘイトスピーチを防止し、あらゆる不当な差別を解消するために、より実効的な法令や条例の整備等が検討されて然るべきである。その場合、表現の自由の重要性に鑑み、表現の内容に着目して刑事規制を行うことについては、慎重な検討を要することに留意しなければならない。
     また、ヘイトスピーチをはじめ、社会内のいわれなき差別や偏見は、立法措置のみによって根絶できるものではなく、市民1人1人がこれを許さないという意識を持たなければならない。かかる意味においても、道内の弁護士・弁護士会が、本法の制定を契機として、ヘイトスピーチをはじめとする不当な差別と偏見のない社会を実現するため積極的な役割を果たしていく決意を、対外的に表明する必要があるため、この宣言をする。

このページのトップへ