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道弁連大会

日本国憲法施行70年にあたり、改めて「個人の尊厳」が最大限に尊重される社会の実現に取り組む宣言

 本年5月3日、日本国憲法は施行70年を迎えた。
 日本国憲法は、個人の尊厳を核心的な価値とし、これを実現するために、国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和主義の基本原理を定めている。日本国憲法はこの70年間、基本的人権の礎となり、我々はその保障のもとで自由闊達な議論を行い国政に参画してきた。さらに、恒久平和主義の誓いのもと、日本は戦争や武力の行使で他人を殺傷することなく今日を迎えている。大日本帝国憲法下、国民は基本的人権が侵害され戦争の惨禍に見舞われた。かかる歴史を振り返れば、日本国憲法制定による価値・原理の転換には計り知れない重みがある。
 日本国憲法の価値は、今なお輝き続けている。そして、いかなる権力といえども、かかる価値を侵すことはできない(立憲主義)。
 日本国憲法の施行以来、弁護士は、市民の最も近くに位置する司法の担い手として、その時々の人権問題に対し、各々の具体的事件を通じて、また弁護士会の活動を通じて、市民の権利擁護に努めてきた。当連合会としても、憲法問題に関する宣言や提言を行い、また基本的人権を脅かす立法について反対する活動を展開してきた。かかる努力や活動が成果を上げてきたのも、個人の尊厳を核心的価値とする日本国憲法の後ろ盾があったからに他ならない。
 当連合会は、日本国憲法施行70年の節目の年にあたり、改めてその核心的価値が個人の尊厳にあることを確認し、国政全般において、国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和主義の基本原理の堅持を求める。そして、自らも、日本国憲法の価値が最大限尊重される社会の実現に、継続して全力で取り組み続ける。

 以上、宣言する。

2017年(平成29年)7月28日
北海道弁護士会連合会

提案理由

  1. 日本国憲法は、1947年(昭和22年)5月3日に施行された。
     この70年間、我々は基本的人権を享受し自由闊達な議論を行い国政に参画してきた。さらに、戦争や武力の行使で他人を殺傷することなく今日を迎えている。大日本帝国憲法下、国民は、基本的人権が侵害され統治の客体に貶められ、さらに戦争の惨禍に見舞われ武力の行使で殺傷し殺傷された。かかる歴史を振り返れば、日本国憲法制定によって、個人の尊厳を核心とする価値・原理への転換を遂げたことには計り知れない重みがあることに思い到る。
     ところが、施行70年という節目の年にあたり、日本国憲法はかつてない危機に直面している。
  2. 2013年(平成25年)、特定秘密の保護に関する法律(特定秘密保護法)が強行採決により成立し、2014年(平成26年)に施行された。特定秘密保護法は、知る権利(憲法21条1項)をはじめとする基本的人権を侵害するものであり、民主主義の根幹を脅かすものである。
     2015年(平成27年)には、平和安全法制整備法及び国際平和支援法(安保法制)が成立した。日本政府は、従前、集団的自衛権の行使は、自衛のための必要最小限度の実力行使を超えるため、憲法上認められないという解釈を維持してきた。にもかかわらず、時の政権は、国民に熟慮の機会を与えることなく、憲法解釈を閣議決定で変更するとともに、強行採決により安保法制を制定し、集団的自衛権の行使を容認した。安保法制は、憲法9条により戦後一貫して認められないとされてきた集団的自衛権の行使を可能とするなど、第96条の改正手続によらずに第9条を改変したに等しいもので、立憲主義に対する挑戦と言うほかない。
     2016年(平成28年)には、この安保法制に基づき南スーダンでの国連平和維持活動に派遣されている陸上自衛隊に「駆けつけ警護」の新任務が付与され、立憲主義の精神に反する事態の既成事実化が進められた。
  3. そして本年に入り、憲法問題がまさに風雲急を告げている。日本国憲法施行70年を迎えた本年5月3日、首相がビデオレターで第9条を含む改正憲法を2020年(平成32年)に施行したいと表明したが、これを機に、十分な国民的な議論や検討を経ないまま、憲法改正の動きが拙速に進められることが強く懸念される。実際、自民党内で年内の国会提出を検討し始めたとのことである。また、「緊急事態条項」の憲法創設も提唱されているが、これは国会の関与なしに政府が法律と同じ効力を持つ政令を出す仕組みであり、「緊急事態」の名の下に基本的人権を侵害する危険性が極めて高い。
     いわゆる共謀罪立法(組織犯罪処罰法改正法)も、処罰の範囲が極めて広汎かつ曖昧であるとともに、国家・警察による監視社会を招来し、ひいては国政に自由に意見表明できなくなるなどといった重大な憲法上の問題を内包している。日本国憲法が直面している危機は、枚挙に暇がない。
  4. 今から10年前の2007年(平成19年)7月、当連合会は、日本国憲法施行60年にあたり「日本国憲法の基本原理の堅持とさらなる実践を求める宣言」を発し、当時の憲法情勢を「基本原理が大きく変容させられる危険性が生じており、まさに重大な岐路に立たされている」と評した。憲法の諸原則を侵す内容の法律が次々に制定され、立憲主義が蔑ろにされている現在の状況は、10年前に比して格段に危機的と言うべきである。
  5. かかる状況の中、改めて日本国憲法の核心的価値が個人の尊厳にあることを確認し、国政全般において、国民主権(前文、第1条)、基本的人権の尊重(第13条)、恒久平和主義(前文、第9条)の基本原理の堅持を求める必要がある。当連合会も、日本国憲法の価値が最大限尊重される社会の実現に向けて、継続して全力で取り組み続けることとし、この宣言をする。

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