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道弁連大会

議案第1号(決議)

東日本大震災からの復興に全力を尽くす宣言

2011(平成23)年3月11日,国内観測史上最大の地震及び津波被害が発生した。さらには東京電力福島第一原子力発電所の事故が発生し,放射性物質の拡散により多くの住民が避難を余儀なくされた。

ここ北海道でも,東日本大震災による直接的及び間接的被害を受けた。函館市ではこの震災によって1名の方が亡くなり,道内太平洋側の各地で,津波による建物の浸水被害や漁業被害も多く発生した。
また,東京電力福島第一原子力発電所の事故による放射性物質の拡散は,日本国内のみならず海外にも広く報道され,日本を訪れる外国人観光客は激減した。道内各地の観光地及び市街地で外国人観光客を見かける機会が少なくなったことを北海道の住民は実感している。

さらに,交通網の遮断や工場の稼働停止等のため生じた部品供給の遅れによる生産活動の停滞,震災直後の過剰自粛など,震災の経済的悪影響は全道に及んだ。

現在までに2000名を超える住民が東北地方から北海道へ避難され,不安な日々を過ごしている。親族友人を頼りに,または各種団体の支援によって避難された住民は,従前の地域社会から切り離された生活を強いられ,金銭的にも精神的にも余裕のない暮らしを余儀なくされている。

情報化社会とはいえ,元の居住地の情報は北海道にすべて届くわけではない。各種通信機器が発達した世の中ではあるが,特に高齢者・障がい者にとって,インターネットを通じた情報入手は容易ではない。

東日本大震災による被害は東北地方を中心に日本全体に及び,その被害の規模は,過去の災害に起因する被害と比べて格段に大きい。しかも,東京電力福島第一原子力発電所の事故による被害からの回復及び復興の見通しは必ずしも明らかではない。
すでに各地の弁護士会及び弁護士会連合会から声明が発表されているとおり,東日本大震災による被害は,現行法の規定では解決できない問題を含んでいる。例えば,火災保険の地震特約や相続放棄申述期間,さらにいわゆる二重ローン問題など,法律や契約を形式的に適用するだけでは解決できず,かえって被災者を更に窮地に追い込む結果を招きかねない。これら問題のうち一部はすでに立法による解決が図られたものもあるが,全面的な解決にはほど遠いのが被災者の実感である。

このような未曾有の震災被害発生に対し,東日本大震災によって特に大きな被害を受けた岩手・宮城・福島の各県では,それぞれの弁護士会が被災した住民に対して献身的な努力を続けている。
当連合会では,震災発生直後から,被災地の地元弁護士会からの要請に応えて巡回法律相談等への弁護士の派遣を行ってきた。今後とも要請がある限り,被災地への弁護士の派遣を継続する。
また,当連合会は,道内の被災者及び本州から避難された被災者に対する道内各地での法律相談に全力で取り組む。被災者向けの無料面談・電話相談,出張相談,各種講演会・研修会などを精力的に実施する。
被災地弁護士会の活動は法律相談にとどまらない。被災地で法律相談に当たる弁護士は,被災者に一番近いところで被災者の生の声を聞き,政府及び地方自治体にその声を届ける役割も担っている。当連合会は,被災地弁護士会が被災地の最前線での法律相談により注力できるよう,法律相談結果の集計や調査研究活動など被災地の弁護士及び弁護士会の後方支援にも力を注ぐ。
今回の未曾有の災害では,現行法の枠組みでは解決不可能な課題が山積している。当連合会は,被災者の代弁者として被災地弁護士会とともに,政府及び地方自治体に対して適時・適切に建設的な政策提言を行う。ここ北海道では,1993(平成5)年に奥尻島において甚大な津波被害が発生した。奥尻島における津波被害からの復興は,東日本大震災からの復興の貴重な先例となるはずである。我々は,復興途上で発生する問題に一歩先んじた政策提言を行う。
弁護士は,基本的人権の擁護と社会正義の実現をその使命とする。弁護士は,今こそ,東日本大震災の被災者の支援及び被災地の復興のためにその使命を果たさなければならない。今まさに,弁護士の存在意義が問われているといえる。当連合会も,道内4単位会及び各単位会を構成する弁護士が一丸となり,全力を尽くしてその使命を果たす。
以上のとおり宣言する。

2011(平成23)年7月22日
北海道弁護士会連合会

提 案 理 由

  1. 東日本大震災の被害及び影響
    2011(平成23)年3月11日午後2時46分,宮城県沖を震源地とする東北地方太平洋沖地震が発生した。この地震では国内観測史上最大規模のマグニチュード9.0が観測された。また,この地震により北海道を含む広い範囲に津波が到達し,死者・行方不明者の数はあわせて2万3000名以上にのぼる。さらには東京電力福島第一原子力発電所の事故が発生し,放射性物質の拡散により多くの住民が避難を余儀なくされた。

    当連合会は,多くの尊い人命が失われたことに対し,衷心よりお悔やみを申し上げるとともに,住居を失われるなど多くの方々が罹災生活を余儀なくされたことに対しても,心よりのお見舞いを申し上げる。

    ここ北海道でも,東日本大震災による直接的及び間接的被害を受けたことは記憶に新しい。函館市ではこの震災によって1名の方が亡くなり,道内太平洋側の各地で津波による建物の浸水被害及び漁業被害が発生した。道内における津波被害は全国的な報道では必ずしも大きな扱いにはなっていないが,その被害規模は甚大である。東日本大震災による被害とそこからの復興は東北地方に注目が集まっているが,ここ北海道でも生じた被害は甚大であり,そこからの復興は緒に就いたばかりである。
    一方,東京電力福島第一原子力発電所の事故による放射性物質の拡散は,日本国内のみならず海外にも広く報道され,特に震災直後は日本を訪れる外国人観光客が激減した。震災が発生した3月11日以降,道内各地の観光地及び市街地で外国人観光客の姿を見かける機会は震災前に比べて極端に少なくなった。道内では大手観光バス会社が倒産するなど,観光を主要産業とする北海道にとって,観光客の減少は死活問題である。

    さらに,交通網の遮断や工場の稼働停止による部品供給の遅れにより道内の生産活動も全体的に停滞した。地震発生直後は,ここ北海道でも飲料水や生鮮食料品の供給が滞り,日常生活に支障が生じたこともあった。震災発生直後の過度の自粛により飲食店の来客数が減少し,多くの飲食店において書き入れ時である3月4月の歓送迎会シーズンであっても,来店客数が伸び悩んだことが報道された。震災の影響は水産業や観光業のみならず,全道の全産業に及んだと思われる。
  2. 東日本大震災の課題
    内閣府の発表及び各種報道機関の調査によると,6月中旬までに2000名を超える住民が東北地方から北海道へ避難されたとのことである。避難者の数は,今後も増える見通しである。住み慣れた場所を離れて避難された方々は,慣れない土地で不安な日々を過ごしている。親族友人を頼りに,または各種団体の支援によって避難された住民は,従前の地域社会から切り離された生活を強いられ,金銭的にも精神的にも余裕のない暮らしを余儀なくされている。これら避難された方々には,地方公共団体や各種民間団体が様々な援助や支援策を講じるよう努めている。当連合会はこれら団体に対して心からの敬意を表したい。

    今回の震災では,ツイッターやブログなどインターネットを利用した通信手段が注目された。特に地震発生直後の電話が通じにくい時期においての安否確認や帰宅困難者への情報提供は,この震災で初めてその効果が認識されたと言われている。震災から4か月が経過した後も,避難所や仮設住宅で必要とされる物資の要請がインターネットを通じて情報提供され,世界中から支援の手が被災地にさしのべられている。しかし,このような情報化社会とはいえ,ひとりひとりの被災者が必要とする情報や物資が,それぞれの被災者に的確に届くわけではない。特に高齢者・障がい者にとって,インターネットを通じた情報入手は容易ではない。また,東北地方からの避難者にとって最も欲しい情報の一つが元の居住地の情報である。各種通信機器が発達した世の中ではあるが,避難者の欲しい情報を的確に届けることは,震災直後に限らず,今後も続く避難生活での課題でもある。

    東日本大震災による被害は東北地方を中心に日本全体に及んだ。しかも,その被害の規模は,過去の災害に起因する被害と比べて格段に大きい。とりわけ,東京電力福島第一原子力発電所の事故による被害は,まさに現在進行形で拡大しつつあり,しかも被害の回復と復興の見通しも未だ明らかにされていない。

    去る5月27日に開催された日本弁護士連合会第62回定期総会においても,この原発事故に関し,国民への正確かつ迅速な情報提供,被災者への必要かつ十分な支援と被害補償を求めるとともに,国内全ての既存原発の段階的廃止と,特に危険な原発の即時停止,再生可能なエネルギーの推進などをうたった宣言が採択された。6月に入り,菅首相が中部電力浜岡原子力発電所の全面停止を要請し,中部電力側がこれに応じるという事態となった。北海道電力泊原子力発電所で計画されているプルサーマル発電についても,高橋知事は,安全性が確認されない限り認められないと表明するに至った。

    一方,すでに各地の弁護士会及び弁護士会連合会から声明,意見書が発表されているとおり,東日本大震災による被害は,現行法の規定のみでは解決することが困難な問題を少なからず含んでいる。例えば,火災保険の地震特約や相続放棄申述期間,さらにいわゆる二重ローン問題など,法律や契約を形式的に適用するだけでは解決できず,かえって被災者を更に窮地に追い込む結果を招きかねない。これは,平成5年の北海道南西沖地震や平成7年の阪神大震災でもすでに顕在化していた問題であるが,過去の震災時に解決されないままにされていたものも少なくない。こうした課題のうち一部は立法による解決が図られたものもあるが,全面的な解決にはほど遠い。これは被災者の実感であるばかりでなく,被災者からの相談を受けた弁護士の実感でもある。
  3. 当連合会の決意
    (1) 被災地弁護士会への支援
    このような未曾有の震災被害発生に対し,東日本大震災によって特に大きな被害を受けた岩手・宮城・福島の各県では,それぞれの弁護士会が被災した住民に対して献身的な努力を続けている。
    当連合会では,道内4単位会が連携を取り,震災発生直後から被災地の地元弁護士会からの要請に応えて弁護士の派遣を行ってきた。また,道内4単位会で募った義援金の一部は,すでに被災地弁護士会に送金された。今後とも,被災地からの要請がある限り弁護士の派遣を継続する。
    (2) 被災者への支援
    当連合会は,道内の被災者及び本州から避難された被災者に対する道内各地での法律相談に全力で取り組む。すでに道内4単位会においては,それぞれの単位会で被災者のための法律相談に取り組んでいるところであるが,当連合会は,各単位会と協力して無料の面談・電話相談,出張相談,各種講演会・研修会などを精力的に実施する。
    (3) 被災地への後方支援
    被災地弁護士会の活動は法律相談にとどまらない。被災地で法律相談に当たる弁護士は,被災者に一番近いところで被災者の生の声を聞き,政府及び地方自治体にその声を届ける役割も担っている。国の法律や地方自治体の条例などを制定する基礎となる立法事実は,国や地方自治体だけが集めるものではない。震災発生直後及び震災発生から時間が経過した各段階においてそれぞれ発生する様々な問題や課題について被災者から相談を受け,被災者と共に考えるのが弁護士及び弁護士会である。被災者の声を時間をかけてじっくりと聞き,一緒に解決策を探るためには,被災地の弁護士及びその所属する弁護士会が被災地の最前線での法律相談に専念できる態勢を作らなければならない。被災地以外でもできることは被災地以外の弁護士及び弁護士会が行えるよう準備をしなければならない。
    当連合会は,被災地弁護士会が被災地の最前線での法律相談により注力できるよう,後方支援に全力を挙げる。法律相談結果の集計・入力作業,調査研究活動や電話相談などは,被災地弁護士会でなくても可能な活動ないし行動である。これらの後方支援作業を当連合会及び道内4単位会が行うことによって,特に岩手,仙台及び福島の被災地弁護士会及びその所属弁護士の後方支援に全力を尽くす。
    (4) 政策提言
    今回の未曾有の災害では,現行法の枠組みでは解決することが困難な課題が山積しているのみならず,東京電力福島第一原子力発電所の事故による被害は日々拡大しつつある。当連合会は,被災者の代弁者として被災地弁護士会とともに,政府及び地方自治体に対して適時・適切に建設的な政策提言を行う。ここ北海道では,1993(平成5)年に奥尻島において甚大な津波被害が発生した。奥尻島における津波被害からの復興は,東日本大震災からの復興の貴重な先例となるはずである。我々は,復興途上で発生する問題に一歩先んじた政策提言を行う決意である。
    (5) むすびにかえて
    弁護士は,基本的人権の擁護と社会正義の実現をその使命とする。弁護士は,今こそ,東日本大震災の被災者の支援及び被災地の復興のためにその使命を果たさなければならない。今まさに,弁護士の存在意義が問われているといえる。当連合会は,道内4単位会及び各単位会を構成する弁護士が一丸となり,全力を尽くして上記使命を果たす決意を明らかにし,本宣言案を提案するものである。

以 上

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