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道弁連大会

同性カップルの家族としての関係を法的に保障するため、婚姻制度の平等を求める決議

 当連合会は、異性間では認められている婚姻が同性間では認められていないことが、同性間での婚姻を求める者に対する人権侵害にあたるため、政府及び国会に対し、同性間の婚姻を認める法制度を整備することを求める。

 以上、決議する。

2018年(平成30年)7月27日
北海道弁護士会連合会

提案理由

  1. パートナーシップ認証制度の広がりとその限界
     当連合会は、2016年(平成28年)度定期大会において、北海道内のすべての地方自治体及び地方議会に対し、性的マイノリティ当事者の存在を可視化し、当事者が日常的に直面する困難を直接的に解消するための制度として、いわゆるパートナーシップ認証制度を創設することなどを求める「性的マイノリティに対する差別と偏見をなくし、暮らしやすい地域を作るための制度を求める決議」を行った。これにより、性的マイノリティに対する差別等の人権侵害は、社会が積極的な対応をしなければならない喫緊の人権問題であることを確認した。
     その後、2017年(平成29年)6月1日には、札幌市でパートナーシップ宣誓制度が始まった。これは、性的マイノリティである二人が互いを人生のパートナーとして、日常生活において相互に協力し合うことを約束した関係であることなどを札幌市長に対して宣誓をし、これに基づき、市長名の宣誓書の受領証を交付するというものであり、2018年(平成30年)6月1日までに、42組がこの制度を利用している。
     同様の制度は、札幌市のほか、東京都渋谷区、同世田谷区、三重県伊賀市、兵庫県宝塚市、那覇市で実施されているほか、2018年(平成30年)4月には、福岡市でも開始された。さらに、大阪市及び東京都中野区でも、2018年(平成30年)中に実施することが報道されており、その他全国各地の自治体で、検討が進められている。
     このようなパートナーシップ認証制度の導入は、もはや全国的な流れとなっており、制度の広がりとともに、民間企業においても、同性パートナーを配偶者と同様に扱って、家族手当の支給や福利厚生制度の適用を行う動きが広まっている。また、一部の保険会社や金融機関においては、生命保険金の受取人に同性パートナーを指定できるようにしたり、同性カップルで住宅ローンのペアローンを契約できるようにするなどの取組が始まっている。
     その一方で、パートナーシップ認証制度の利用者数自体は期待されたほど広がっておらず、2018年(平成30年)6月1日時点で、全国7自治体で184組にとどまっている(同年6月2日付け神戸新聞NEXT)。その理由の一つとして、自治体からパートナーシップ認証を受けたとしても、何らの法的効果も伴わないことが挙げられる。同性カップルは、パートナーシップ認証を受けたとしても、法律婚はもちろん、異性間の事実婚であれば認められる法的権利すら現時点では認められていない。そのため、近年、同性カップルをめぐる法的問題について、複数の訴訟が提起され、婚姻の効果が認められないことによる支障が法廷で争われている(※1)。
  2. 同性カップルが直面する不利益の重大性
     同性間に婚姻が認められていないことにより、同性カップルが直面する不利益は、民事、刑事、税制、社会保障、在留資格など極めて幅広い分野に及ぶ。
     同性カップルが最も大きな不利益に直面するのは、パートナーが亡くなった時である。まず、同性パートナーは相続人になることができない。長年共に暮らし、二人で築いた財産であっても、遺言がなければ、同性パートナーがこれを承継することはできない。遺言がある場合であっても、親族から遺留分減殺請求を受ける可能性があり、配偶者の税額軽減措置の適用も受けられない。また、被相続人が差別的な対応を恐れて同性パートナーの存在を親族に伝えていないことも多く、親族がその存在を受け入れることができず、事実上のトラブルになる可能性も高い。さらに、同性パートナーが遺族基礎年金、遺族厚生年金を受給することも難しい。
     また、同性カップルが子を養育する時の不利益も大きい。例えば、同性愛者が一度異性と婚姻して子をもうけ、その後離婚して同性パートナーとともにその子を共同で養育するケースは多く存在するが、そのパートナーと子との間に、法律上の親子関係を築くことは難しい。異性間であれば、婚姻して、配偶者の連れ子と養子縁組を結ぶことができるが、同性間の場合、パートナーの連れ子と養子縁組を結ぶと、実親の親権が失われてしまうからである。そのような場合、パートナーにとって子はあくまで法律上は他人であり、子を病院に連れて行くことも、そのために自分が職場で休みをとることにも困難を伴う。さらに、カップルのうち実親が死亡した場合、問題はより深刻化する。パートナーと子との関係がいかに良好であっても、パートナーが親権を得ることはなく、未成年後見人選任申立の手続が開始するためである。
     パートナーの一方が外国人の場合にも問題は顕在化する。外国人が日本に在留するためには、在留資格を得る必要があり、日本人と婚姻した外国人には、「日本人の配偶者等」という在留資格が与えられる。しかしながら、同性パートナーは、日本人の「配偶者等」には該当しない。異性カップルであれば、日本人の「配偶者等」として、長期間日本に滞在することができるが、同性カップルの場合は、留学や就労系の在留資格を得ることができなければ、短期滞在の在留資格で、日本と外国を行ったり来たりする生活を送るほかない。そうなれば、オーバーステイのリスクと隣り合わせとなる。そして、ひとたびオーバーステイが発覚すれば、退去強制処分となり、いかに同性パートナーと継続的な共同生活を営んでいたとしても、在留特別許可の判断において有利に考慮されることはない(※1)。
     以上で述べた不利益は、同性カップルが直面する不利益のほんの一例に過ぎない。それ以外にも、所得税の配偶者控除が受けられない、社会保険の扶養に入れられない、公営住宅への入居が認められない、病院でパートナーの病状について説明を受けられないなどの、数々の法律上、事実上の不利益が存在する。これらの不利益は、個別の法改正や運用の変更等で解消可能なものもあるが、婚姻が認められないことによる不利益の大半は、同性間の婚姻を認めることでしか解決できない。
  3. 同性間の婚姻を認めないことは憲法違反であること
     憲法13条において、個人の自己決定権が認められているが、当該自己決定権の一内容として婚姻の自由も当然に認められるべきである。すなわち、婚姻するかどうかと誰と婚姻するかの決定は、何を信じ、何を表現するかと同程度に個人の人格をかけた問題として当然に国家の干渉は排除されるべきである以上、婚姻の自由も人権と観念されなければならない。女性の再婚禁止期間の違憲性が争われた最高裁判所2015年(平成27年)12月16日判決において、「婚姻をするについての自由」は「十分尊重に値する」と判示されていることも、この趣旨に沿う。
     また、憲法14条1項は、法の下の平等を保障し、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、差別的な取扱いを禁止しているところ、同性カップルは婚姻することができず、婚姻制度において、「性別」又は「社会的身分」たる性的指向に基づいて、異性カップルと異なる差別的な取扱いを受けているが、これは明らかに不合理な差別であり、平等原則に反するものである。この点、結婚とは生殖と子どもの養育を伴うものであるとして、同性間の婚姻を否定する見解があるが、少なくとも現代の日本では、婚姻により形成された「家族」については、秩序維持のための社会統制ないし誘導の手段としての側面よりも、個人のプライベートな結合としての側面が重視されており、婚姻の目的も、生殖や子の養育に限られないのが実際である。異性カップルでも、子どもを持つ意思のない夫婦、不妊等の理由で持てない夫婦、高齢の夫婦も多く存在する中、同性カップルの場合だけ、婚姻の意義を、子どもを産み育てることに限定して解釈するのは不合理である。また、同性でも、養育を担うことは可能であり、前記見解においては、実際に里親として要保護児童を受け入れている同性カップルが存在することや、里親や養子縁組により養育を望む者が少なくない事実が無視されている。
     ところで、憲法24条1項が、「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」するとしていることから、同条項を根拠として同性間の婚姻を認めることは憲法上否定されるとする見解がある。しかし、同条項が設けられた趣旨は、旧民法下における戸主を中心とする封建的な家制度を廃止し、婚姻が、戸主の同意を要することなく、当事者個人の合意のみに基づいて成立するものであることを確認することにあるのであって、同条項は同性婚を積極的に禁止する趣旨で定められたものではない。
     以上、個人の尊厳を旨とする現行憲法のもとでは、憲法13条の幸福追求権・自己決定権及び個人の尊重、さらに、憲法14条の性別等による差別の禁止に基づき、日本国憲法が、同性間についても婚姻の自由を積極的に保障していると解するべきであって、同性間の婚姻を認めないことは、憲法のこれらの条項に反するものである。
  4. 同性間の婚姻をめぐる国際的な状況
     2018年(平成30年)1月時点において、同性間の婚姻が認められている国は、24か国・地域に及んでおり、ここ3年間だけで見ても、新たに6か国で同性間の婚姻が認められるに至っている。これにより、世界の約20%の人々が、同性間で婚姻できる国・地域に住んでいることになった。G7の中で同性婚を制度として認めていないのは日本とイタリアのみであり、しかも、イタリアには、国レベルで同性パートナーシップ登録制度が存在するから、国の法制度として同性カップルの法的保障を何も持っていない先進国は、日本だけという状況にある。
     法制化の潮流は、もはや欧米諸国にとどまるものではなく、アジアでも、2017年(平成29年)5月、台湾の司法院大法官会議(憲法法廷)が、結婚の前提を男女間と定めた民法の規定が、婚姻の自由と平等という憲法の趣旨に反するとの解釈を公表し、2年以内に立法措置をとるよう求めたことは、記憶に新しい。さらに、タイ王国でも、同性間の婚姻を認める法律の制定に向けた作業が進められ、年内にも成立し、施行される見通しであると報道されている。
     各国が同性婚を整備した理論的根拠として、国際人権法では、「私生活及び家族生活の尊重を受ける権利」の中に性的指向が含まれていること、「法の下の平等」の内容として性的指向に基づく不合理な差別は禁じられていることが挙げられる。同性カップルの家族としての関係を法的に保障し、婚姻制度の平等を実現することは、性的指向や性自認に基づく差別を解消し、性的マイノリティの人権を確保するものであり、これは国際人権法の要請にも応えるものである。
     しかしながら、日本では、性的指向や性自認に基づく差別解消のための法的な整備は一切講じられておらず、同性カップルの権利保障についても、何らの法的措置もとられていない。このことについて、日本は、自由権規約委員会や人権理事会等から度重なる勧告を受けているが、これに一切応じていない。
     かかる国際人権法違反の状態を放置し続けることは、国際社会の一員として、もはや許されるものではない。
  5. 結論
     同性間の婚姻を認め、婚姻制度の平等の実現を図ることは、性的マイノリティの人格的生存に不可欠なものであり、現に困難に直面する当事者にとっては、一刻も争う人権問題である。
     そして、複数の自治体による同性パートナーシップ認証制度の広がりにより、国民の理解は着実に進んでおり(※2)、世論の後押しもある。
     そこで、当連合会は、政府及び国会に対し、早急に同性間の婚姻を認める法制度の整備を求めるべく、標記のとおり決議する。

以上

【注釈】

  • ※1 2017年(平成29年)3月、日本人の同性パートナーと約25年間一緒に暮らしてきた台湾人男性が、短期滞在の在留資格のままオーバーステイとなり、それを理由に退去強制処分となったが、婚姻関係にあれば認められることが多い在留特別許可が認められず、退去強制処分の取り消しを求めて提訴した。
     2017年(平成29年)12月には、殺人事件の被害者である男性と長年同居していた同性パートナーが申請した犯罪被害給付制度に基づく遺族給付金について、愛知県公安委員会は「配偶者(事実上の婚姻関係を含む)に該当しない」として不支給を決定し、これを不服とした同性パートナーが、国家公安委員会に審査請求を行っている。
     そして、2018年(平成30年)4月には、大阪府内に住む男性が、40年以上一緒に暮らしてきた同性パートナーが死亡した際に、パートナーの親族に火葬場への同行を拒否されるなどの不当な扱いを受けたとして、親族に対し、慰謝料の支払いや生前の約束に基づく財産分与を求めて提訴している。
     これらのケースで問題になっている権利は、婚姻関係にある異性カップルであれば、問題なく認められるものである。同性カップルが、これら異性カップルにとっては当然の権利を手に入れるために、訴訟などの法的手続まで余儀なくされているのは、ひとえに同性間に婚姻が認められていないからにほかならない。

  • ※2 NHKが行った憲法に関するアンケート調査(2018年)では、51%が同性間の婚姻を認めるべきだと回答。

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