1. 平成28年12月14日、再犯の防止等の推進に関する法律(以下「推進法」といいます。)が成立し、公布・施行されました。

犯罪や非行をした者(以下「犯罪をした者等」といいます。)の円滑な社会復帰を促進すること等による再犯の防止等は、犯罪対策において重要であり、その防止等に関する施策を総合的かつ計画的に推進することにより、国民が犯罪による被害を受けることを防止し、安全で安心して暮らせる社会の実現に寄与することが、推進法の目的です。

そして、推進法第5条は、再犯の防止等に関する施策が円滑に実施されるよう、国及び地方公共団体が相互に連携を図らなければならないこと、同法第7条第1項は、再犯の防止等に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、政府が再犯の防止等に関する施策の推進に関する計画(以下「再犯防止推進計画」といいます。)を定めなければならないこと、同法第8条第1項は、都道府県及び市町村が、再犯防止推進計画を勘案して、各都道府県又は市町村における再犯の防止等に関する施策の推進に関する計画を定めるよう努めなければならないことを規定しています。

推進法の施行を受け、政府は、平成29年12月15日、再犯防止推進計画を定めるに至り、北海道においても、平成30年4月、関係諸機関に参加を呼びかけ、北海道再犯防止推進会議を立ち上げました。同会議は3年度にわたって開催され、平成30年度は再犯防止に関する各種調査を、平成31年(令和元年)度は各種研修やフォーラムなどを行いました。そして、令和2年度にはかかる調査、研修等の結果を踏まえて、北海道における再犯防止推進計画を策定することとなっています。

2. 「犯罪白書」等の資料によれば、近年、犯罪件数は認知件数、検挙件数ともに減少傾向にあるとともに、刑務所の被収容者(受刑者)数も減少傾向にありますが、他方で、再犯者、刑務所への再入所者数の割合は増加傾向にあります。

このことは、単に犯罪をした者等の責任を追及して、刑務所等の矯正施設に収容し、その反省を促すことのみでは再犯を防止する手段としては不十分であることをあらわしています。

この点、人が犯罪や非行をした場合、その手続は、警察・検察庁・弁護士・裁判所・刑務所・保護観察所等の司法機関、行政機関が主に関わってきました。

もっとも、それらの手続きは、「犯罪をした者等」について適正な手続によりその犯罪等に応じた処罰等を課すことを重視してきたもので、その人の「社会復帰支援」という観点を重視した手続とは言い難いものでした。

また、「犯罪をした者等」は、その大半が貧困や薬物依存をはじめとした様々な問題を抱えており、それらの問題が解消されないことが再犯に至る原因にもなっています。しかし、かかる問題に対する対策や解決を行うための医療・福祉機関等との関わりも、これまで十分とはいえなかったところです。

弁護士及び弁護士会も、刑事弁護手続を通じて「犯罪をした者等」の社会復帰支援に一定の関わりをもってきましたが、刑事手続終了後は、その人との関わりが途絶えるのが大半であり(一部では手続終了後も精力的に活動をされている弁護士もいましたが)、刑事手続終了後における「犯罪をした者等」の社会復帰支援を弁護士・弁護士会全体の課題とは捉えていなかった面もあります。

3. 「犯罪をした者等」が社会において、その居場所を見いだして社会復帰し、再犯に至らないためには、その人が抱える問題を解消することが不可欠ですが、本人の自助努力のみでは、問題の解消は困難な面もあり、一定の支援が必要です。

そして、その問題解消のための支援を行うには、従来刑事手続に関わってきた上記司法機関・行政機関のみでは限界があり、保健医療・福祉関係機関、民間団体等と連携した上での、一貫した支援が求められています。

例えば、「犯罪をした者等」の就労支援のためには、ハローワーク等との連携が求められるでしょうし、その人が精神的な疾患を抱えているのであれば、保健医療機関との連携や、福祉機関の受け入れ体制等がなければ、その円滑な社会復帰は困難となります。

4. 「犯罪をした者等」の社会復帰支援を適切かつ実効的に行うためには、各刑事手続から社会に戻るまでの段階ごとに支援を行うことが不可欠です。

まず、「犯罪をした者等」が、刑事施設へ収容されると一定期間社会と断絶することになり、その後の就労に支障をきたすなど、その社会復帰が困難になることがあります。

このような傾向は、自立した生活が難しい高齢者や障害者などに多く見られるところであり、起訴猶予処分や執行猶予判決などにより服役に至らない人を福祉面から支えるなど、その者の再犯を防止するための支援が求められます(このような支援を「入口支援」といいます。)。

つぎに、「犯罪をした者等」が、刑事施設に収容された場合であっても、大半の人はいずれ社会復帰するわけですから、再犯を防止するための効果的な処遇や、社会復帰のための準備が必要となります。そのために、刑事施設に収容中から、その者が抱える問題を十分把握し、その問題を解消するための方策を講じつつ、刑事施設を出た後の就労先を確保する等の支援(このような支援を「中間支援」といいます。)が求められます。

さらに、「犯罪をした者等」が、罪を償い、刑事施設から出る際の支援も不可欠です(このような支援を「出口支援」といいます。)。刑事施設から出た人を取り巻く環境は、好意的なものとはいえないのが実情ですし、また、「犯罪をした者等」の抱える問題は、直ちに解消できないものも多くあるからです。例えば、薬物犯罪などでは、長い目でみた専門的かつ継続的な治療が必要になることが多いところです。

このように、「犯罪をした者等」に対する支援は、「入口」段階、「中間」段階、「出口」段階の各段階において必要であり、その支援は長期かつ継続的なものとなりますが、これら各段階における支援は、それに携わる関係機関が連携し、かつ、連続して行われなければ、実効性を欠くこととなります。実際、「入口」段階で、その者の抱える問題点が把握できているにも関わらず、それが「中間」段階に引き継がれないのであれば、「中間」段階において改めてその者の抱える問題点を把握することから始めなければならず、効率的な支援とはいえないことになります。

5. われわれ弁護士は事件発生直後から「犯罪をした者等」と関わり、その抱える問題点やその人に必要な支援が何かを把握できる立場にあります。

また、弁護士は、その職務において医療機関や民間団体等様々な機関との連携を行いながら人権擁護のための活動を行っています。

これまでの弁護士の「犯罪をした者等」に対する支援は、いわば「入口」段階に重点をおいて行われてきたものといえますが、上記のような弁護士の立場や活動からすると「犯罪をした者等」が抱える問題を把握し、その社会復帰を支援するなど、再犯を防止するための重要な役割を果たすことができます。

現在、北海道が実施する再犯防止推進会議も3年目に入り、北海道における具体的な再犯防止推進対策の内容を検討する段階にあります。

当連合会としては、「犯罪をした者等」に対し、「入口段階」における刑事事件への取組みをこれまで以上に強めるとともに、関係する司法(検察庁・裁判所)、刑事及び矯正行政に関わる諸機関(法務省、刑務所、保護観察所、地方更生保護委員会等)、関係団体(社会福祉施設、NPO、民間企業、保健医療機関等)との連携をとりつつ、「中間段階」「出口段階」においても連続した社会復帰支援のための取組みを行い、今後、北海道が行う再犯防止推進計画に積極的に関与する決意をここに表明いたします。

2021年(令和3年)1月19日
北海道弁護士会連合会
理事長  樋川 恒一