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声明・宣言

北海道における裁判手続等のIT化に関する理事長声明

 内閣官房が設置した「裁判手続等のIT化検討会」は、2018年3月30日、「裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ -「3つのe」の実現に向けて-」(以下「本取りまとめ」といいます。)を発しました。裁判手続等のIT化は、現在紙媒体で行っている主張や証拠の提出をオンライン提出とすること(e提出)、主張や証拠に随時オンラインでアクセスすること(e事件管理)、裁判手続をウェブ会議やテレビ会議を導入し拡大すること(e法廷)等を内容とするものです。現在各地でウェブ会議システム等を用いた模擬裁判が実施されるなど、裁判手続等のIT化は今後急速に進むことが予測されます。

 社会のIT化は急速かつ確実に進んでおり、その利便性は否定できません。かかる社会の流れの中で裁判をより充実させ、迅速・適正に行うため、裁判手続等のIT化の検討は必須といえます。日本弁護士連合会でも、裁判手続のIT化は、弁護士業務改革シンポジウムで2011年以来3度にわたって取り上げられるなど、重要課題のひとつとされています。

 一方、裁判手続等のIT化には、裁判の公開や直接主義などといった民事裁判の諸原則との整合性、セキュリティ対策、非弁対策等、数々の問題点が指摘されていますが、中でも裁判を受ける権利に対する配慮は不可欠です。ITシステムの利用が困難な市民や事業者において十分な訴訟活動ができなくなる、などという事態は決して起きてはなりません。代理人弁護士等が選任されていない本人訴訟が民事裁判全体の半数以上を占めている我が国の現状からしても、かかる配慮が不十分な場合の影響は甚大です。本取りまとめは「全面IT化」を目指すべきとしていますが、紙媒体での主張・証拠提出の道を完全に閉ざしてよいのか、特に証拠調べ手続等は裁判官の面前で直接行うことが必要ではないか、等、慎重かつ十分な検討が不可欠です。

 また、裁判手続等のIT化により、裁判所機能の集中が加速されることも強く懸念されます。特に、北海道は、広大な面積を有することに加え、冬期間は交通が極端に劣悪となります。北海道における司法過疎は今なお深刻であり、当連合会は自らこの問題に積極的に取り組むほか、裁判所の人的物的拡充を強く求めています。しかし、裁判官が常駐していない裁判所支部の常駐化は進まず、むしろ裁判所職員の大規模庁への集中がなされています。本取りまとめは、ITシステム利用困難者に対する支援措置にも触れていますが、裁判所による一方当事者への支援がどこまで可能か等疑問な点も多く、面談ではないウェブ上や電話での支援だけでは全く不十分です。そもそも、裁判所への出頭の必要性を完全に無くすることは不可能です。利便性のみの追求は、まさに司法過疎の加速に直結します。大規模庁への急速な集中化が招来され、裁判所支部や出張所が統廃合されてしまうと、特に北海道においては、地域住民の裁判を受ける権利の侵害が直ちに具体化すると言っても過言ではありません。

 「北海道」という広大な管轄地域を有する当連合会は、裁判手続等のIT化について、さまざまな問題点を指摘することに加え、特に地域の実状に応じた裁判を受ける権利に対する十分な配慮がなされること、中でも裁判所機能の大規模庁への集中化、裁判所支部や出張所の統廃合がなされないことを強く求めるものです。

2019年(平成31年)2月16日
北海道弁護士会連合会
理事長  大川 哲也

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