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声明・宣言

成年後見制度の利用促進に向け、市町村長申立ての積極的な活用と
  成年後見制度利用支援事業の整備拡充を求める意見書

第1 意見の趣旨

 当連合会は、国及び北海道内の関係各機関に対し、以下のとおり要請する。

  1.  国は、成年後見制度に関わる各種法令に基づく施策を実施するに当たっては、成年後見人等に対する報酬の助成について財源の裏付けを伴う制度を構築することを含め、町村部の経済基盤の脆弱性等に配慮した必要かつ十分な財政措置を講じること。
  2.  北海道内のすべての市町村において、成年後見制度の利用を必要とする高齢者及び障害者のために、積極的に市町村長申立てを活用すること。
  3.  北海道内のすべての市町村において、申立費用や後見人等報酬助成を含む成年後見制度利用支援事業の実施要綱を速やかに策定するとともに、その周知及び実施基準の緩和に努め、同事業を積極的に活用すること。
  4.  北海道及び北海道内のすべての市町村は、各地域の特性や制度利用ニーズを十分把握するとともに、福祉、医療、地域及び司法等との関係者とも連携、協力して、地域連携ネットワークを構築し、そのネットワークの有効活用に向けた積極的かつ効果的な取組を進めること。

第2 意見の理由

  1.  近年、高齢者(65歳以上)人口の総人口に占める割合が急速に上昇している。国勢調査の結果で見ると、北海道における高齢者人口は、2000年に100万人を超え、2015年には約155万8000人となっている。加えて、北海道の2015年の高齢化率は、29.1%(全国20位)となっており、今後全国平均を上回る伸びで増加し、2025年には、34.5%に達する見込みと指摘されている。
     このように社会の高齢化が進行する中、2016年5月13日、成年後見制度の利用の促進に関する法律(以下「促進法」という)が施行され、政府は2017年3月24日、成年後見制度促進基本計画(以下「基本計画」という)を閣議決定した。
     促進法は、「認知症、知的障害その他の精神上の障害があることにより財産の管理又は日常生活等に支障がある者を社会全体で支え合うことが、高齢社会における喫緊の課題であり、かつ、共生社会の実現に資すること及び成年後見制度がこれらの者を支える重要な手段であるにもかかわらず十分に利用されていないこと」(同法1条)を踏まえて制定されたものである。
  2.  市町村長による成年後見等申立ての積極的な活用の必要性
    1.  促進法11条7号においては、「市町村長による後見開始、保佐開始又は補助開始の審判の請求の積極的な活用」が求められている。
       しかるに、最高裁判所事務総局家庭局の統計「成年後見関係事件の概況」によれば、これらの申立件数は、制度開始の2000年から右肩上がりに上昇してきたが、2012年以降は3万5000件前後で推移している。この数値は、認知証高齢者人口が462万人であるのに対して、あまりにも少ない。
       このような現状は、成年後見制度が十分に利用されているとは言い難く、高齢者や障害者の人権保障のための制度として十全に機能しているとは言えない。特に成年後見のニーズを抱えている認知症高齢者・知的障害者・精神障害者等は、親族と疎遠になっていて、誰にも頼れずに孤立しているために成年後見等の申立ての必要がある場合も多いのが実情である。そのような場合には、市町村長申立ては本人の権利擁護のために最後の砦となるべきものである。
    2.  2017年における市区町村長による成年後見等の申立件数は、全国で7037件(19.8%)であるところ、北海道内のそれは221件(16.5%)と、全国平均を下回り、申立てがゼロの市町村も少なくなく、十分利用されているとは言い難い。残念ながら北海道内では、実際には本人の権利擁護のために市町村長申立てが必要と思われても、窓口で難色を示されたり、仮に市町村長申立てに至るとしても、本人との関わりが全くなく、将来法定相続人になる可能性もない疎遠な親族の戸籍調査や意向調査に多大な時間をかけてしまうケースがみられ、高齢者虐待や障害者虐待事案であっても、なかなか市町村申立てに至らない事案も存在する。市町村長申立ての活用は、市町村担当者の積極性に左右される実情があり、住民の権利擁護に対する意識の高さと相関関係があると言っても過言ではない。
    3.  特に、保佐・補助に関する市町村長申立ての件数はまだまだ少なく、そもそも保佐・補助を市町村長申立ての対象としていない市町村も一定数存する。
       しかしながら国は、保佐・補助を市町村長申立対象から外してはいない。保佐・補助相当の事案についても、本人による申立てが期待できるとは限らず、例えば保佐申立てをしなければ経済的虐待が続き、養護者の利得のもとに本人の財産が減少し続け、生活が困窮して生活保護等を余儀なくされる場合もあり得る。このようなときには、被虐待者の権利擁護のために、市町村が積極的かつ迅速に介入を行わなければならず、かかる対応は社会保障費抑制の観点からも望ましい。
    4.  それゆえ、全ての市町村において、成年後見制度を必要とする高齢者及び障害者のために、保佐・補助相当の事案についても、市町村長申立ての必要性を認識し積極的に活用すべきである。
  3.  成年後見制度利用支援事業の整備拡充について
    1.  基本計画の3(4)②においては、全国どの地域に住んでいても成年後見制度の利用が必要な人が制度を利用できるようにする観点から、地域支援事業及び地域生活支援事業として各市町村で行われている成年後見制度利用支援事業について、以下の視点からの検討を求めている。

      ① 成年後見制度利用支援事業を実施していない市町村においては、その実施を検討
       すること

      ② 地域支援事業実施要綱において、成年後見制度利用支援事業が市町村長申立てに
       限らず、本人申立て、親族申立て等を契機とする場合をも対象とすることができる
       こと、及び後見類型のみならず保佐・補助類型についても助成対象とされることが
       明らかにされていることを踏まえた取扱いを検討すること

       そして、これらについては2018年3月の全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議においても改めて要請されたところである。
    2.  成年後見制度は、経済的に裕福な者だけが必要となる制度ではなく、生活困窮者であっても必要となる制度であるところ、成年後見制度利用支援事業がなければ、後見等開始審判申立ての費用や後見人等の報酬を負担できない者は成年後見制度を利用できないことになりかねない。また、障害者については、2012年度から地域生活支援事業において成年利用支援事業が必須事業化されている。
    3.  そこで、まずは北海道内のすべての市町村において、申立費用や後見人等報酬助成を含む成年後見制度利用支援事業の実施要綱を速やかに策定すべきである。そして、その要綱においては、本人・親族申立てや保佐・補助類型についても助成対象とすることが必要である。
       一方、既に実施要綱が制定されているにもかかわらず事業利用実績のない市町村が大部分であることは、契約締結能力を欠く人口推計に照らせば異常である。その理由は、利用支援事業の住民及び支援者に対する周知が不十分であること、また、事業実施基準が厳格に過ぎたり、利用者のニーズに適合してないことにあると考えられる。したがって、市町村においては、実施要綱を制定しただけで満足することなく、その周知及び実施基準緩和に努め、成年後見制度利用支援事業を積極的に活用するべきである。
  4.  北海道の役割の重要性
    1.  成年後見制度の利用を促進し、その充実を図るためには、福祉、医療、地域及び司法等の関係者・関係機関が連携、協力できるようにするための仕組み(ネットワーク)を構築することが不可欠である。
       促進法24条においては、「都道府県は、市町村が講ずる前条の措置を推進するため、各市町村の区域を超えた広域的な見地から、成年後見人等となる人材の育成、必要な助言その他の援助を行うよう努めるものとする。」と規定する。
       また、基本計画の3(5)②においては、「都道府県は、国の事業を活用しつつ、市町村と連携をとって施策の推進に努め、どの地域に住んでいても制度の利用が必要な人に対し、身近なところで適切な後見人が確保できるよう積極的な支援を行うことが期待される。」とする。
       市町村の規模にはばらつきがあり、単独では成年後見制度に対する十分な取組が容易でない市町村もあり、その意味でも北海道の役割は、極めて重要である。
    2.  この点、北海道が取りまとめた、第7期(2018年から2021年)「北海道高齢者保健福祉計画・介護保険事業支援計画」(素案)の中で、北海道として、次のような取組を検討していることは、極めて重要である。

      ① 判断能力が十分でない人が、不利益を被ることがないよう、家庭裁判所や関係機関
       とも連携し、広域的な見地から助言を行うなどして、市町村における成年後見制度の
       取組を一層促進すること。

      ② 市町村の住民を対象とした、市民後見人養成研修や、市民後見人の活動を支援する
       ためのフォローアップ研修、後見実施機関の設立、運営について助言等を行うととも
       に、制度の周知や利用の促進に努めること。

      ③ 認知症初期集中支援チームの設置などの市町村の取組に対して助成するほか、先進
       的な取組に関する情報提供を行うこと。

      ④ 地域包括支援センターの高齢者支援のコーディネート機能を強化するため、地域
       ケア会議の運営、ネットワーク構築等への助言指導を行う者や、権利擁護などの困難
       事例への相談支援を行う専門家(弁護士等)など、市町村単独では確保が困難な人材
       を派遣すること。

    3.  当連合会と北海道は、2016年3月、「地域住民の安心した生活の支援に関すること」等について、連携・共同して取り組むために、包括連携協定を締結した。この取組の一環として、2017年度には、空知総合振興局と石狩振興局の2か所で、「地域包括支援センター等と弁護士会及び弁護士との連携に関する意見交換会」を実施した。
       北海道及び市町村には、各地域の特性や制度利用ニーズを十分把握するとともに、福祉、医療、地域及び司法等との関係者とも連携、協力して、地域連携ネットワークを構築し、そのネットワークの有効活用に向けた積極的かつ効果的な取組を進めることが求められる。
  5.  予算措置の重要性
    1.  成年後見制度利用支援事業の整備拡充には、当然、予算が必要となる。
       近時、地方自治体の財政が厳しいことは重々理解するところであるが、成年後見制度は、判断能力が低下し、弱い立場に置かれている高齢者及び障害者の権利を守り、人間として健康で文化的な最低限度の生活を保障する意義を有する制度である。ここに不十分な予算しか確保されなければ、窓口担当者としては、その予算内に申請件数を抑えようと、受理に消極的になることは十分予想される。
    2.  また、親族がいても疎遠であったり親族間の対立がある場合のほか、業務遂行に当たって専門的知識を有する場合など、弁護士や司法書士、社会福祉士等の専門職後見人を選任する必要のある事案が生じることは避けられず、そして、その件数は確実に増加している。このような事案に対応する専門職後見人を安定的に確保するためには、報酬が保障されることが必要である。
       それゆえ、国は、成年後見制度に関わる各種法令に基づく施策を実施するに当たっては、後見人等に対する報酬の助成について財源の裏付けを伴う制度を構築することを含め、必要かつ十分な財政措置を講じるべきである。その際、北海道内の町村部においては、経済基盤が脆弱であるところも多い上、交通インフラや地理的な条件により専門職が関与するのに都市部よりも不利な状況が存することなどから、こうした事情に十分に配慮した傾斜配分がなされる必要がある。
  6.  当連合会の取組
     当連合会は、これまで成年後見制度を必要とする高齢者及び障害者の権利擁護に努めてきた立場から、成年後見制度の利用を促進し、その充実を図るために、以下の取組を行っていく所存である。
    1.  関係者・関係機関が効果的に連携、協力できるよう、成年後見制度利用促進基本計画において定められた権利擁護支援の地域連携ネットワークの構築及びそのコーディネートを担う中核的な機関の設置・運営に積極的に関与すること。
    2.  成年後見制度が、高齢者や障害者の自分らしく生きる権利を実現するための制度であることを改めて確認し、後見等の業務が本人の意思を尊重し、心身の状態及び生活の状況等を踏まえて行われるよう、成年後見制度の担い手となる弁護士のさらなる研鑽を図る取組を行うこと。

 

2018年(平成30年)3月27日

北海道弁護士会連合会
理事長  愛須 一史

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