提案理由

1.胆振東部地震の発生と被害状況

2018年(平成30年)9月6日、北海道内において胆振東部地震が発生し、死者42人、住家の全壊462棟、半壊1570棟、一部破損1万2600棟という甚大な被害が生じた(2019年(平成31年)1月28日付内閣府発表)。

さらに、同地震発生直後、「ブラックアウト」と呼ばれる未曾有の大規模停電が道内全域で発生し、完全に解消された2018年(平成30年)10月5日までの間、停電した戸数は最大で約295万戸に及んだ(2019年(平成31年)1月21日総務省北海道総合通信局発表)。

当連合会は、同地震災害で亡くなられた方々に謹んで哀悼の意を表するとともに、被災された方々に心よりお見舞いを申し上げる。

2.当連合会の被災者支援活動

(1) 当連合会のうち札幌弁護士会は、停電の影響を受けながらも、震災発生後直ちに現地に赴いて、弁護士・弁護士会として被災者・被災地に寄り添う支援活動に着手した。2018年(平成30年)9月8日には、災害対策本部を立ち上げ、あわせて被災地自治体、日本司法支援センター及び他士業団体等と連携しながら、同月12日から、特に被害の大きかった札幌市清田区と胆振東部三町(厚真町、安平町、むかわ町)に弁護士を派遣するとともに、継続的に被災者支援ニュースを発行して、被災現地における被災者に向けての法律相談と情報提供に努めた。その後も無料電話相談や法律相談センター内での無料相談を実施するなど、被災した方々に寄り添うべく様々な支援活動に積極的に取り組んできた。

その結果、2019年(令和元年)6月末日までに、札幌市清田区で45件、胆振東部三町(厚真町、安平町、むかわ町)で125件、電話相談で297件、法律相談センター(面談相談)では63件もの相談が寄せられた。

くわえて、被災ローンの減免制度である「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」(自然災害ガイドライン)の利用促進を図るべく、登録支援専門家に登録するための会員向け研修の実施、金融機関や被災者向けの研修及び説明会の開催、裁判所との意見交換会の開催など様々な取組みを行っており、2019年(令和元年)6月末日時点で、自然災害ガイドラインの委嘱依頼件数は合計25件に上っている。

(2) 当連合会のうち旭川弁護士会、釧路弁護士会、函館弁護士会においても、胆振東部地震発生後、法律相談センターや中小企業向け相談(ひまわりほっとダイヤル)等を通じて、ブラックアウトの影響で被害を受けた道内各地の事業者等に対し法律相談を実施した。当連合会も、北海道が胆振東部三町で中小企業に向けて実施した説明会・相談会に弁護士を派遣するなどして被災者支援活動に取り組んできた。

(3) 札幌弁護士会における被災者向けの無料電話相談、巡回型法律相談等の相談件数は、2019年(平成31年)1月頃より減少傾向にあり、ようやく落ち着いてきた状況ではあるが、被災者からの震災に関する相談は依然として続いている。また、自然災害ガイドラインについては毎月一定数の委嘱依頼があり、前記の胆振東部地震の被害状況に鑑みると、今後も相当数の委嘱依頼がされることが予想されるところであり、当連合会は、北海道胆振東部地震における被災者の生活再建と被災地の復興が一日も早く実現するよう、引き続き、各地方自治体や関連団体と協力しながら、その支援に全力で取り組む決意である。

3.応急仮設住宅の入居期間の問題

(1) 胆振東部地震発生後、各被災地域において、災害救助法第4条1項1号に定める「応急仮設住宅」(建設型仮設住宅・借上型仮設住宅)が住家を一時的に失った被災者に提供されている。

札幌市及び北広島市は、2018年(平成30年)9月下旬頃から借上型仮設住宅の入居受付を、また、北海道も同年11月1日から胆振東部三町(厚真町、安平町、むかわ町)の被災者のために建設型仮設住宅の供与をそれぞれ開始し、最終的に全道で、借上型仮設住宅176戸、建設型仮設住宅233戸、福祉仮設住宅2施設が被災者に供与されている(2019年(平成31年)4月30日北海道発表)。

(2) 被災者に対して応急仮設住宅を供与できる期間については、応急救助に必要な範囲内において、内閣総理大臣が定める基準に従い、あらかじめ、都道府県知事又は救助実施市の長(以下「都道府県知事等」という。)が定めると規定されている(災害救助法第4条3項、災害救助法施行令第3条1項)。

そして、前記の「内閣総理大臣が定める基準」によれば、応急仮設住宅を供与できる期間は完成の日から最長で2年3か月と定められていることから、胆振東部地震の被災者に対する応急仮設住宅の供与期間は、入居日から2年以内とされている(内閣府告示第228号第2条2号イ(6)、同条同号ロ(3)、建築基準法第85条3項、同条4項)。

このため、2020年(令和2年)9月下旬頃から、応急仮設住宅の供与期間が順次満了し、被災者は応急仮設住宅を明け渡さなければならないこととなる。

(3) しかしながら、各被災地域では、災害公営住宅の建設等様々な復旧・復興事業が展開されているものの、完全な復旧・復興を果たすまでにはまだ相当の期間を要することが予想される。

胆振東部地震による地盤の液状化により宅地や道路が広範囲にわたって陥没した札幌市清田区里塚地区においては、薬液注入工法による地盤改良工事の試験施工が2019年(令和元年)6月上旬に着工されたところであり、札幌市によれば、宅地の地盤改良工事は2020年(令和2年)3月頃までに、道路の復旧工事は2021年(令和3年)3月頃までにそれぞれ完成を目指すとのことである。

また、胆振東部三町で最も被害の大きかった厚真町でも、2019年(平成31年)3月に復旧・復興計画策定方針を定め、同方針に基づいて、現在、全世帯にアンケート調査を実施するなどして住民意見を集約しているところである。同町によれば、具体的な復旧計画の立案は2020年(令和2年)3月頃を予定しており、復旧・復興計画の期間は、7年間(2019年度〜2025年度)を予定しているとのことである。

こうした各被災地域における復旧・復興計画の内容及び進捗状況に照らすと、住家を失った被災者が恒久住宅を確保できないまま、「入居日から2年以内」という応急仮設住宅の供与期間が満了して、応急仮設住宅からの退去を強いられるおそれがある。

(4) 特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律(以下「特定非常災害法」という。)第2条1項の「特定非常災害」に指定された著しく異常かつ激甚な非常災害については、被災者の住宅の需要に応ずるに足りる適当な住宅が不足するため2年の期間を超えて応急仮設住宅を存続させる必要があり、かつ、安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めるときは、応急仮設住宅を供与できる期間を延長することができると定めている(同法第8条)。

これまで平成7年阪神・淡路大震災、平成16年新潟県中越地震、平成23年東日本大震災、平成28年熊本地震、平成30年7月豪雨災害が特定非常災害に指定されたが、胆振東部地震は、全道179市町村に災害救助法が適用される大規模な地震災害であったものの、「特定非常災害」には指定されておらず、特定非常災害法第8条に基づく応急仮設住宅の供与期間の延長をすることはできない。

しかし、災害によって住家を失った被災者にとって、生活の基盤である恒久住宅を確保することが生活再建のために等しく必要不可欠であるにもかかわらず、被災者の関知しない「特定非常災害」の指定の有無によって応急仮設住宅の供与期間について異なる扱いを受けることは不公平であり、恒久住宅を確保できない被災者に対する適切な支援とは言いがたい。

(5) 「特定非常災害」に指定されない災害であっても、応急仮設住宅の供与期間を延長することは可能である。

すなわち、災害救助法が適用される災害については、上記のとおり、応急仮設住宅の供与期間は最長2年3か月とされているが、災害救助法施行令第3条2項は「前項の内閣総理大臣が定める基準によっては救助の適切な実施が困難な場合には、都道府県知事等は、内閣総理大臣に協議し、その同意を得た上で、救助の程度、方法及び期間を定めることができる。」と定めている。

また、災害救助法及び同法施行令は、国費によって負担することが可能な救助の種類、程度、方法及び期間を定めたものにすぎないから、同法施行令第3条2項に基づく供与期間の延長ができない場合であっても、自治体は、国費に頼らず自ら費用を負担することで、独自に応急仮設住宅の供与期間を延長することができると解されている。

もっとも、いずれにおいても、建設型仮設住宅については、建築基準法の応急仮設建築物とされるため、完成から2年3か月を超えて存続させることができないが(建築基準法第85条3項、同条4項)、同仮設住宅の基礎を補強するなどして同法が定める各種基準に適合させる措置を講ずることで、2年3か月を超えて存続させることが可能である(2011年台風12号災害における和歌山県の取組み、2012年北九州北部豪雨災害における阿蘇市の取組み等)。

(6) したがって、胆振東部地震によって住家を失った被災者が、応急仮設住宅の入居から2年後に、生活再建の基盤である恒久住宅を確保することができない場合には、北海道及び被災地自治体は、応急仮設住宅の供与期間を延長すべきである。

4.結語

もとより、応急仮設住宅での長期間にわたる避難生活は、ストレスによる体調不良や周囲からの孤立を招きやすく、住家を失った被災者にとって、生活の基盤である恒久住宅を一日も早く確保することが第一であり、災害公営住宅の建設等の被災地域の復旧・復興事業が速やかに実施されるべきであることは言うまでもない。

しかしながら、被災地の復旧・復興は、あくまで被災した住民一人一人の目線に立って、被災者の意向を最大限尊重しながら進められなければならず、被災者の意向が十分に反映されないまま拙速に進められるようなことがあってはならない。

このように、被災地の復旧・復興事業は、迅速に実施することが求められる反面、被災者の意向を丁寧に集約しながら進められなければならないことを考慮すると、被災者が恒久住宅を確保できない状況が今後も相当期間続く可能性があるが、恒久住宅を確保できていない被災者に対し、法令を形式的に適用して、応急仮設住宅からの退去を迫ることは許されないというべきである。

そこで、当連合会は、今後も、胆振東部地震で被災された方々の支援と被災地の復興に向けて、その支援に全力で取り組む決意を示すとともに、北海道及び被災地自治体に対し、被災地の復旧・復興の進捗状況を見据えながら、応急仮設住宅の供与期間の延長を柔軟に検討することを求める。

近年我が国では、毎年のように大規模な自然災害が発生し、将来、北海道東部の十勝沖から択捉島沖にかけて大きな地震が発生することも予測されているところであり、応急仮設住宅の入居期間の問題は、北海道胆振東部地震に限った問題ではない。

もっとも、建設型仮設住宅については、上記のとおり、建築基準法に抵触しないよう、基礎を補強するなど同法が定める各種基準に適合させる措置を講じる必要があり、多額の財政的負担が発生することから、この問題を解決することは容易ではない。

当連合会としても、応急仮設住宅の供与期間の問題を重要な問題と位置づけ、災害救助法や建築基準法等の関係法令の改正に向けた取組みも視野に入れて、北海道及び被災地自治体と協力しながら、この問題の解決に尽力する決意である。

以上