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道弁連大会

「特定複合観光施設区域整備法」(いわゆる「カジノ解禁実施法」)の廃止と実効性のあるギャンブル依存症対策の実現を求める決議

 当連合会は、「特定複合観光施設区域整備法」(いわゆる「カジノ解禁実施法」)の成立に抗議するとともに即時にこれを廃止すること、及び実効性のあるギャンブル依存症対策の実現を求める。

 以上、決議する。

2018年(平成30年)7月27日
北海道弁護士会連合会

提案理由

  1. 2018年(平成30年)7月20日、「特定複合観光施設区域整備法」(以下「カジノ解禁実施法」という。)が成立した。
     これを受けて、全国各地の自治体がカジノ誘致に名乗りを上げており、北海道においても、複数の地域がカジノを誘致する姿勢を示している。
     当連合会は、既に2017年(平成29年)7月28日付で「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(以下「カジノ解禁推進法」という。)の廃止を求め、北海道へのカジノ誘致に反対する道弁連大会決議を発出してきた。
  2. カジノの解禁には、民間企業による設置・運営を認めている等、現行刑法下での違法性阻却を認めがたいという法的問題のみならず、同決議が述べているとおり、カジノの解禁には、暴力団等の反社会的勢力が関与してカジノがその資金源となるという問題、カジノがマネーロンダリングに利用されるという問題、ギャンブル依存症患者の増加やこれに伴う多重債務の再燃という問題(特にカジノ解禁実施法76条以下において規定される特定金融業務が多重債務防止に重要な役割を果たしてきた貸金業法による規制の例外を認めていることは大きな問題である。)、家庭崩壊、自殺者増の懸念(韓国統計庁の統計によれば、カジノ「カンウォンランド」の所在地である旌善郡(チョンソングン)の2016年の自殺率は全国平均の1.5倍超である。)、犯罪増加と周辺地域の治安悪化の問題、といった看過できない重大な問題点が多数含まれている。
     また、カジノ解禁推進法では、カジノのみならず、ホテル、アミューズメントパーク、会議場等が一体となった施設(IR方式)を予定していることから、家族連れが訪れることによる青少年の健全育成に対する悪影響も指摘されている。カジノ解禁実施法は、かかる悪影響や問題点を解決できるものではない。とりわけ、同法は、ギャンブル依存症対策として、入場回数制限を「7日間で3回、28日間で10回まで」とし、入場料を「6000円」と定めているが、1週間に3回もカジノに行くのであれば、もはや立派な依存症である。また、6000円という入場料は諸外国に比べて高いとは言えないし、入場料が高いことが有効な依存症対策になるという点についても医学的知見が得られているわけではないのであるから、同法の定めはギャンブル依存症対策として不十分といわざるを得ない。
  3. また、道内のIR候補地について北海道が行った試算によると、最も多い来場者数が見込まれる苫小牧市では、年間来場者数最大869万人見込んでおり、その内訳としては、外国人客20%にすぎない一方、周辺住民が42%となっており、周辺住民を主要ターゲットにしたものとなっている。
     上記のとおりカジノ解禁実施法の定めがギャンブル依存症対策として不十分であることからすれば、主要ターゲットである周辺住民の多数がギャンブル依存症となり、さらにこれに伴い上記2で指摘した重大な問題が多数生じるおそれがあり、周辺地域に生じる弊害と悪影響は計り知れない。
     他方で、カジノ解禁を推進する声として経済的効果や地域振興が挙げられるが、本来、経済の活性化は、ギャンブルによるべきではない。
     以上のとおり、カジノ解禁実施法の下でカジノを解禁することは、上記のとおり様々な問題を孕んでいるばかりか、青少年の健全育成に対して悪影響を及ぼすおそれがあり、ギャンブル依存症対策も不十分であることに加え、道内にカジノが誘致されれば周辺地域に重大な弊害と悪影響が生じることをも考慮すれば、同法は即時廃止されるべきである。
  4. ところで、厚生労働省の調査によれば、我が国には320万人から536万人がギャンブル依存を疑われているとされる。この数は、成人人口の約3%から5%に及ぶ人数であり、諸外国においては、概ね1%台にとどまっている調査結果からみても、異常な数値である。
     これは、わが国でさまざまなギャンブルが容認され、しかもその施設がいたるところに存在し、市民が極めて容易にギャンブルにアクセスできる環境に置かれているからに他ならない。
     すなわち、我が国は、刑法に賭博罪(第185条、第186条)、富くじ罪(第187条)を設けて、賭博や富くじを犯罪としながらも、他方で、競馬、競輪等の公営ギャンブルが法律によって違法性が阻却され、また、パチンコ・パチスロについては、店舗で取得した景品の現金化が半ば公然と行われる実態がありながらも行政解釈によって賭博ではないと扱われ、容認されている。
     とりわけ、パチンコ・パチスロは、時的(いつでも)・場所的(どこでも)・人的(誰でも)な障壁がほとんど存在せず、テレビ、新聞等のマスメディアにおける広告量の多さと相まって、市民との間の物理的・精神的近接性が極めて高い。また、世界中のゲーミングマシン(ギャンブル機械)の約60%が我が国のパチンコ店に存在していることからしても、上記のギャンブル近接性は、我が国特有の事情によるものであると言える。
     一方で、これら既存ギャンブルにおいては、ギャンブル利用者の入場チェックが行われず、賭け金額や回数の上限の定めはなく、また、いかに低収入であっても、制限なくギャンブルに参加することができることになっている。
  5. このように我が国において、ギャンブル依存症問題は、極めて深刻かつ重大な問題となっているにもかかわらず、現在まで「自己責任」の名の下に社会問題化されずにきた。
     そのことが結局、依存症対策なきギャンブルを蔓延させることになったばかりか、医療関係者や当事者団体、法律専門家等、ギャンブル依存者やその家族等から相談を受ける立場の者においてすら、ギャンブル依存の病態やその対処についてほとんど理解されない状況をもたらしてきた。
     ギャンブル依存症は、アルコールや薬物等依存と同様のメカニズムで発症することから、だれしも罹患する可能性がある。そして一旦発症すると完治が難しく、何らかの治療的・福祉的アプローチを全くしない場合には病状の進行する精神疾患である。加えて、依存症患者自身が病識を持つことが困難であるため、治療になかなか結びつかない。
     害は本人にとどまらない。ギャンブルをするための経済的・時間的条件を獲得するために多額の借金や時に犯罪に手を染め、依存症患者自身だけでなく家族も崩壊させることもある恐ろしい病気である。
     本来であれば、これほどまでに重大化したギャンブル依存症対策を社会的責務と位置づけ、これを強力に推進する政策がまずもって実施されるべきであるにもかかわらず、そのような議論がほとんどなされることなく、ギャンブル依存症対策を置き去りにしたまま、カジノ解禁実施法が成立したことは、きわめて重大な問題である。
  6. さらにカジノを含むギャンブルがもたらす悪影響として見過ごすことができないのが青少年のこころの発達に与える影響である。
     道内の医師で組織される北海道児童青年精神保健学会等団体が2018年(平成30年)3月13日に連名で北海道知事にカジノを含むIRの北海道への誘致に反対する要請を行った。それによれば、ギャンブル嗜好の親がギャンブルで散財することにより、家計が破綻し、養育環境が破壊される。また、射幸心を刺激するギャンブルによって、社会人としての人格を形成する大変重要な時期に青少年のこころの発達がゆがめられてしまうおそれがあるとされている。
     このような現にギャンブル依存症患者に現場で接する医療関係者からの強い懸念の声はギャンブル依存症の実態を最もよく知る専門家の声として重要な指摘であり、国や地方自治体は真摯に受け止める必要がある。
  7. よって、当連合会は、カジノ解禁実施法の成立に抗議し、即時にその廃止を求めるとともに、一刻も早い実効性のあるギャンブル依存症対策の実現を求める。

以上

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