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道弁連大会

集団的自衛権行使等を容認する閣議決定の撤回を求めるとともに、同閣議決定に基づく関連諸法令の改正及び制定に反対する決議

当連合会は、政府に対し、集団的自衛権行使等を容認する閣議決定の撤回を求めるとともに、同閣議決定に基づく関連諸法令の改正及び制定に反対する。
以上、決議する。

2015年(平成27年)7月24日
北海道弁護士会連合会

提案理由

  1. 7.1閣議決定の内容
    (1) 憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認
    政府は、2014年(平成26年)7月1日、「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」と題する閣議決定(以下「7.1閣議決定」という。)において、「①我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、②これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るため他に適当な手段がない時に、③必要最小限度の実力を行使すること」は「自衛のための措置として、憲法上許容される」(①②③は引用者が挿入。これを以下「新3要件」という。)として、これまでの憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を容認した。
    (2) 自衛隊の活動範囲、武器使用等の拡大
    また、7.1閣議決定では、①「武力攻撃に至らない侵害への対処」として、平時において自衛隊が迅速に治安出動や海上警備活動を行うことができるようにすることや、武器使用できる範囲を広げる法整備をすること、②「国際社会の平和と安定への一層の貢献」として、国際社会の平和と安全が脅かされた場合に国際連合等での決議に基づき武力の行使を行っている他国軍隊に対して、「後方支援」や、「非戦闘地域」だけでなく、「『現に戦闘を行っている現場』ではない場所」において支援活動を行ったとしても武力の行使と一体化とはならず、これに必要な法整備をすること、③「国際的な平和協力活動に伴う武器使用」として、国際連合平和維持活動(PKO)などの国際的な平和協力活動に関し、自衛隊によるいわゆる「駆け付け警護」(自己又はその保護しようとする活動関係者の生命又は身体の防護)や「任務遂行のための武器使用」(自衛隊の従事する業務を妨害する行為を排除するための武器使用)、「武器使用を伴う住民保護」などを行うための法整備をすること、④在外邦人救出などにおいて自衛隊による武器使用が認められること、などの解釈変更ないし新たな方針を示した。

  2. 新安保法制の主な内容
    その後、政府・与党は、7.1閣議決定を具体化する関連法の制定・改正案をまとめ、本年5月15日、現在開会中の第189回通常国会に提出した(以下、包括して「新安保法制」という。)。
     その主な内容は、以下のとおりである。
    (1) 武力攻撃事態対処法改正案
    従来、自衛隊の防衛出動は、「武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態(武力攻撃事態)」においてのみ認められ、かかる事態を排除するため他に適切な手段がない場合に、必要最小限度でのみ武力行使が認められるとされてきた。
    しかしながら、本改正案では、この「武力攻撃事態」に加え、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態(存立危機事態)」にも防衛出動をなし得るとし(新3要件中①)、これによって集団的自衛権の行使を可能とする。
    なお、「他に適当な手段がない」及び「必要最小限度」の各要件は、本改正案においても存するが(新3要件中②及び③)、防衛出動の場面が「存立危機事態」に拡大されることに伴い、「他に適当な手段がない」という状況や「必要最小限度」とされる範囲も拡大されることとなる。
    (2) その他の「新安保法制」
    ア 周辺事態安全確保法改正案(重要影響事態安全確保法)
     従来、自衛隊は、「周辺事態」(そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態)において、米軍に対する「後方地域支援」を行ない得るとされていたが、本改正案では、「我が国周辺の地域」という地理的要件を取り除いた「重要影響事態」という概念を創出し、この場合において、米軍以外の他国軍隊に対しても支援を行うことができるとし、支援の範囲についても「現に戦闘が行なわれていない現場での支援」を認めることとするなど、これまでの制限を大幅に緩和する。
    イ 国際平和支援法案
    従来、国際連合決議などに基づいて他国軍隊が行っている軍事行動に対し支援を行う場合は、特別措置法としてその都度に国会審議を行なったうえで、特定の事態・地域に限定しかつ「後方地域」でのみ行ない得るとしていたものを、事態や地域による限定のない恒久法として「国際平和支援法」を制定し、「後方地域」に限らず支援活動を行うことを可能とする。
    ウ 国連平和維持活動協力法改正案
    従来、自衛隊がPKO等に従事している際の武器使用については、自己及びその管理下に入った者の生命・身体を守るためのみに認められていたが、本改正案では、それに加えて、「駆け付け警護」や地域住民の防護等を行なう「安全確保活動」を遂行するための武器使用を可能とする。
    エ  自衛隊法改正案
    本改正案は、上記(1)並びに(2)アないしウの改正及び制定に伴う自衛隊法改正ほか、領域国の同意がある場合における自衛隊による武器使用を伴う在外邦人の救出や、平時における米軍の武器防護のための武器使用を可能とする。

  3. 7.1閣議決定及び新安保法制の問題点
    (1) 集団的自衛権行使容認の問題点
       上記のとおり7.1閣議決定とそれに基づく武力攻撃事態対処法改正案は、集団的自衛権行使を容認するものである。
       以下、主な問題を指摘する。
    ア 確立された憲法解釈の変更
    従来、政府は、憲法第9条が戦争放棄(1項)、戦力の不保持と交戦権の否認(2項)を規定していることを前提として、同条下において自衛権の行使が許容されるのは、①我が国に対する急迫不正の侵害(武力攻撃)が存在すること、②この攻撃を排除するため、他の適当な手段がないこと、③自衛権行使の方法が、必要最小限の実力行使に止まること、の3要件を満たす場合に限られるとしてきた(これを「旧3要件」という。)。
    そのうえで、政府は、集団的自衛権について、「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」と解釈し、集団的自衛権は上記①の要件に該当せず憲法上許されないとする見解を貫いてきた(1954年(昭和29年)6月3日衆議院外務委員会外務省条約局長答弁ほか。なお、近時では2004年(平成16年)1月26日衆議院予算委員会内閣法制局長官答弁など)。
    しかるに、集団的自衛権の行使を容認する7.1閣議決定は、憲法第9条に反して許されないという長年の議論を通じて確立された政府の憲法解釈を変更するものである。
    イ 立憲主義の否定 
    また、そもそも近代憲法は、個人の尊厳及び基本的人権の確保のために、国民が行政権その他の国家権力の行使を厳格に制限するという立憲主義を基盤としている。さればこそ、日本国憲法は、憲法の最高法規性(第98条1項)のもとで、厳格な憲法改正手続を定め(第96条)、公務員の憲法尊重擁護義務(第99条)を規定している。
    そのため、憲法によってこのような制約を受けている政府が憲法改正手続を経ずに解釈によって集団的自衛権行使を容認することは、立憲主義を真っ向から否定するものである。
    ウ 憲法第9条違反
    さらに、日本国憲法前文及び第9条は、我が国が先の大戦とそれに先行する植民地支配によりアジア諸国をはじめ内外に多大な惨禍を与えたことに対する深い反省と教訓に基づき、国際連合憲章の国際紛争の平和解決原則をさらに発展させ、国権の発動たる戦争と武力による威嚇又は武力の行使を、国際紛争を解決する手段として永久に放棄し、さらに軍隊を保持せず、交戦権も認めない徹底した恒久平和主義に立脚している。こうして、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうに」政府の行為に厳しい縛りをかけたのであるが、集団的自衛権行使の容認は、憲法第9条にも違反することが明らかである。
    以上から、憲法違反の7.1閣議決定は直ちに撤回されるべきであり、同閣議決定を具体化して集団的自衛権行使を認めることとなる武力攻撃事態対処法改正案も憲法第9条及び立憲主義に違反し許されるものでない。
    (2) その他の「新安保法制」の問題点
    7.1閣議決定と新安保法制は、集団的自衛権行使容認以外にも、自衛隊により武器使用のできる範囲や他国軍隊の武力行使と密接にかかわる支援活動のできる範囲を大幅に拡大するものとなっている。
    以下、主な問題点を指摘する。
    ア 周辺事態安全確保法改正案(重要影響事態安全確保法)
    従来の周辺事態安全確保法は、「日米防衛協力の指針」(いわゆる「新ガイドライン」)を具体化するために制定された法律である。そして、同法に基づく「後方支援」は、憲法第9条との関係から、日本周辺の地域における事態に限定するものであること、日米安保条約に基づく米軍の活動を支援するものであること、現に戦闘が行われておらずその活動期間を通じて戦闘が行われることがないと認められる「後方地域」での支援活動であることから、「自衛隊による武力行使にはあたらない」と説明されてきた。
    しかしながら、本改正案では、周辺事態安全確保法に定める「後方地域」という概念を削除するため、「日本周辺の地域」という地理的限定がなくなり、世界中どこででも支援活動を行い得ることとなる。また、同改正案では、「その活動の期間を通じて戦闘が行われることがないと認められる地域」という限定もなくなり、「現に戦闘が行われていない」とされた以上は戦闘現場に極めて近い地域やいつ何時戦闘現場となるか分からない切迫した場所においても活動が可能となり、他国軍隊の武力行使との明確な峻別が不可能となる。さらに、支援の対象は米国軍隊に限らず、「国際連合憲章の目的達成に寄与する活動を行う外国の軍隊その他これに類する組織」に拡大されたことにより、「日米安保条約に基づく活動」というこれまでの我が国の安全保障体制との明確なつながりまでも失うこととなる。
    このように、本改正案は、これまでの周辺事態安全確保法に存在した自衛隊による他国軍隊の武力行使への支援活動に対する憲法第9条に基づく制約を取り払うないしは大幅に緩和するものであって、同条に違反する疑いが極めて強いものである。
    イ 国際平和支援法案
      本法案は、集団安全保障ないしそれに準じる活動を念頭に置き、「国際社会の平和及び安全を脅かす事態であって、その脅威を除去するために国際社会が国際連合憲章の目的に従い共同して対処する活動を行い、かつ、我が国が国際社会の一員としてこれに主体的かつ積極的に寄与する必要があるもの」を「国際平和共同対処事態」と定義し、かかる事態において、自衛隊が「協力支援活動」と「捜索救助活動」を行なうことを可能とするものである。
      従来、このような活動を行うための法制度としては、2001年(平成13年)のアメリカ同時多発テロとアフガニスタン戦争を受けた「テロ対策特別措置法」、その延長としての性格を持つ「補給支援特別措置法(新テロ特措法)」、2003年(平成15年)のイラク戦争を受けた「イラク人道復興支援措置法」などが存在した。そして、これらの法制度では、米軍その他の外国軍隊の戦闘行為のための物品、役務の提供、戦闘参加者の捜索救助活動、被災民救援活動などの「後方支援」を行うこととされていた。
    しかしながら、これらの法制度に基づく活動自体、必ずしも国際連合の決議に基づくものではないことや、「後方支援」とはいえ実態は米軍その他の外国軍隊の戦闘行為に欠くことのできない行為であり戦闘行為の一端を担うものであって武力行使との一体化のおそれがあることから、憲法第9条に違反する疑いが強いとの懸念が示されていた(2001年(平成13年)10月12日日本弁護士連合会「テロ対策特別措置法案に関する会長声明」、2003年(平成15年)7月5日同「イラク特措法に関する会長声明」など)。また、名古屋高等裁判所は、2008年(平成20年)4月17日、イラク復興特別措置法に基づく航空自衛隊の空輸活動について、他国の武力行使と一体となったものであり、憲法第9条1項に反すると判断した。
    この点、今国会に提出された本法案も、国際連合決議が必須の要件とされていないことは従前と同様である。また、武力行使との一体化という点についても、従来の「後方支援」でさえ武力行使との一体化が指摘されていたにもかかわらず、本法案は、さらにこれを超えて、「「現に戦闘が行われていない現場」でさえなければ、近い将来戦闘が予想される現場や、戦闘現場に接近した現場でも支援活動を行い得る」としている。これは、従来の法制度以上に米軍その他の外国軍隊の武力行使との一体化に接近するものであり、まさに憲法第9条が禁止する武力の行使そのものとなるおそれが極めて強いものである。
    ウ 国連平和維持活動協力法改正案
     そもそも国連平和維持活動協力法における武器使用については、憲法第9条が武力の行使を禁じているため、その制定に至る段階から問題となり、政府も「隊員個人の生命・身体を守るための必要最小限の武器使用は、憲法の禁じる武力行使にはあたらない」との見解に立ち、その限度でのみ武器使用ができるとしてきた。
     そのうえで、政府は、「駆け付け警護」について、「相手方が国家または国家に準ずる組織である場合には憲法の禁ずる武力行使にあたるおそれがある、相手方が単なる犯罪集団であることが明白な場合等これに対する武器使用が国際紛争を解決する手段としての武力行使にあたるおそれがないということを前提にすることが可能な場合には憲法上当該武器使用が許容される余地がないとは言えない」、との見解に立っていた。
     また、政府は、「任務遂行のための武器使用」についても、「いわば自己保存のための自然的権利というべきものの枠を超えるものであり、相手が国家または国家に準ずる組織の場合には憲法の禁ずる武力の行使に該当するおそれがあることから、憲法との関係で慎重な検討が必要である」、との見解に立っていた。
    しかしながら、政府は、「国際協調主義に基づく『積極的平和主義』の立場からいわゆる国際社会の平和と安定に一層取り組んでいく必要がある」ことや、「『国家に準ずる組織』が敵対するものとして登場することは基本的にないと考えられる」との一方的な認識を示し、本改正案において、「駆け付け警護」や「任務遂行のための武器使用」を行うことができると規定するが、これは、これまで憲法の禁ずる武力の行使に該当するおそれがあるとして制限を課してきた武器使用を大幅に拡大するものであり、憲法第9条に反する恐れが極めて強いものである。
      以上から、「新安保法制」によって認められることとなる海外での自衛隊の活動内容は、活動時期・活動地域・活動内容及び武器使用に対するこれまでの制約を大幅に緩和するものであって、日本国憲法のよって立つ恒久平和主義に反し、違憲ないし違憲の疑いが極めて強いと言わざるを得ない。
    (3) 立憲主義・国民主権からの問題点
    日本国憲法は、国民主権に立脚し(憲法前文、第1条)、憲法改正について、その最終決定権者を国民と定めている(憲法第96条)。 これは、立憲主義によって確保されるべき個人の尊厳及び基本的人権の主体である国民自身が憲法改正の最終決定権を持つこととし、これによって立憲主義を全うしたものである。
    ところが今、政府は、本来、憲法を改正しなければなし得ない集団的自衛権の行使容認を、7.1閣議決定とこれに基づく法令の改正及び制定により実現しようとしているが、これは、憲法第96条を潜脱し、国民主権を侵害し、ひいては立憲主義を否定する行為だと言わざるを得ない。

  4. 結論 当連合会は、政府が憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認等の方針を明らかにした後の2014年(平成26年)9月9日に「憲法解釈の変更により集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定に抗議し、すみやかな撤回を求める理事長声明」を発した。また当連合会を構成する旭川、釧路、札幌、函館の各弁護士会においては、それぞれ当連合会と同趣旨の声明を発するとともに、市民集会や街頭活動などを通じて、7.1閣議決定は立憲主義及び恒久平和主義に反し違憲であり、集団的自衛権行使容認等に反対する立場を表明してきた。2015(平成27)年7月11日には、当連合会及び道内4弁護士会が主催して、「わたしたちは戦わない! NO WAR 大集会&パレード in北海道!」と銘打った集会とパレードを行い、賛同する市民が約6000人集結した。各地でも、同趣旨の集会やシンポジウム等が開催され、マスコミが行った直近の世論調査においても、新安保法制反対が賛成を大きく上回っている。また、政府が法案を十分に説明していないという回答も大多数に及んでいる。かかる状況にありながら、政府は、7.1閣議決定を撤回することなく、今国会において、その具体化を図る新安保法制の改正及び制定を目指している。そして、同月15日、衆議院平和安全法制特別委員会で強行採決が行われ、翌16日、衆議院本会議でも強行採決が行われた。かかる暴挙は、立憲主義・議会制民主主義への挑戦というほかなく、断じて許されるものではない。
    当連合会は、集団的自衛権行使等を容認する閣議決定に強く抗議し、その撤回を求めるとともに、同閣議決定に基づく関連諸法令の改正及び制定に断固反対する。

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