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道弁連大会

議案第3号(決議)

改正貸金業法の完全施行にあたり、多重債務問題の解決に向けて尽力することの宣言

2006年(平成18年)12月に成立した改正貸金業法が2010年(平成22年)6月18日に完全施行され、①貸金業者の個人に対する貸付総額を規制する総量規制、②出資法の上限利率を利息制限法所定の利率まで引き下げる金利規制、などが実施されるに至った。

この改正は、多重債務問題が深刻化し、日本全国で2003年(平成15年)には自然人の破産件数が24万件、経済苦を理由とした自殺が7000人にも及ぶ事態を受け、日本弁護士連合会(日弁連)をはじめ、関係する諸団体が貸金業法改正に取り組んだ結果である。我々は、弁護士会及び弁護士の社会的使命と役割に基づくものとして、多重債務問題を生活の根幹に関わる重大な人権問題と捉え、これに陥った人たちの救済とともに根本的な解決を目指してきた。また、改正貸金業法の成立後も、日弁連や当連合会を構成する各単位会などが早期の完全施行を求めていたものであり、一部の施行開始から2年半を要したものの、一部延期の声があった中、今般完全実施されたことを、当連合会としては高く評価するものである。

その一方で、総量規制の実施に伴い、これに抵触するために新たな借入れをできない利用者が生活に行き詰まることの懸念が指摘されている。しかし、消費者金融等からの借入れによって生活をすること自体が相当ではないというべきであり、生活保護や営利を目的としない低金利の貸付けなど社会としてのセーフティネットを充実させることこそが必要である。

また、総量規制の実施や金利規制による貸し渋りが生じることで、借入れができなくなった者がいわゆるヤミ金融等に走る懸念もあるとされている。しかし、ヤミ金融自体は貸金業法や出資法に違反する犯罪行為であり、それ自体が徹底的に撲滅されるべきである。それらの行為を取り締まる第一次的な責任は、警察など行政にあるが、ヤミ金融等に関する法律相談を受ける弁護士としても、各関係機関と連携して、その撲滅のために尽力することが必要である。

他方、弁護士は、本来、多重債務問題の解決の最前線に立つべきところであるが、全国的にみても、弁護士による多重債務事件の処理の仕方について、①過払い事件しか受任しない、②相談者と面談をせずに受任する、③手続きや報酬について十分な説明がない、といった事例が指摘されていることは誠に遺憾であり、かかる不適切行為の防止に努めなければならない。

そこで、我々は、次のとおり宣言する。

  1. 国や各関係機関に対し最低限の生活を守るためのセーフティネットの更なる充実を求め、その実現に向けた一層の取り組みを行う。
  2. ヤミ金融や新たな手口の脱法的金融業者による被害防止のため、各関係機関と連携し、その撲滅を目指す。
  3. 多重債務事件の処理において弁護士としての適切な対応を行うよう十分に留意し、市民の信頼に応える。

2010年(平成22年)7月23日
北海道弁護士会連合会

提 案 理 由

  1. 2003年(平成15年)には全国における自然人の破産件数が24万件に達するなど、近年の多重債務者増加は、大きな社会問題となっている。多重債務問題は、破産という現象のみではなく、そこから派生するものとして、①経済苦を理由とした自殺、②家庭の崩壊、③返済のための犯罪の誘発、④ギャンブル依存、など多くの問題を引き起こす原因ともなっている。
    多重債務問題を解決するためには、その温床となっている高金利の引き下げや過剰貸付の禁止こそが必要不可欠であり、日弁連や当連合会を構成する各単位会、消費者団体などは、これらを求めて貸金業法の改正を国に働きかけ、地方議会には国に対する意見書の提出を求めるなどの全国的な運動を展開し、2006年(平成18年)の貸金業法改正を実現した。
    その後、破産件数は2008年(平成20年)には13万件と大幅に減少しており、また、大手貸金業者は金利規制の施行前から約定金利を利息制限法所定の利率以下にするなど、改正貸金業法の成果は着実に現れているといえる。
  2. ところが、この改正貸金業法の立案・法案審議の当時より、貸金業界側からは強い反対があり、その根拠とするところは、こうした改正が実施されると、①資金需要者に貸せなくなり、借りられなくなった者がたちまち生活に困ることになる、②まともな貸金業者から借り入れができなくなった者がヤミ金融からの借入れに走り、ヤミ金融がはびこる、などというものであった。
    また、改正法が成立した後も、完全施行までに相当な期間があったことから、完全実施を見直すよう貸金業界側からの強い巻き返し行動もなされたところである。
  3. 確かに、現在借入れがある利用者のうち、42%が総量規制により今後の借入れができなくなるとの試算もなされている(金融庁2010年4月30日発表)。しかしながら、前記①の借りられないために生活に困るということについては、そもそも消費者金融等から借入れをして生活をしなければならないような状況そのものが問題であって、生活費不足を補うために借入れ残高が年収の3分の1を超えてしまうような借入れをすれば、たちどころに返済に窮することになるのは当然の帰結であり、このような根拠に正当性があろうはずもない。
    このような生活困窮者の問題は、生活保護等のセーフティネットによって救済されなければならないものである。一時的な支出増や失業等による場合には、生活福祉資金貸付制度や臨時特例つなぎ資金貸付制度といった公的貸付があるほか、近時は民間の各種法人等による生活支援のための低利貸付も徐々に増えてきている。もっとも、生活福祉資金貸付制度においては、2009年(平成21年)から連帯保証人を不要にする、貸付原資が増加されるなどの改善がなされてはいるものの、未だに貸付窓口(社会福祉協議会)の事務体制や広報、宣伝活動が十分とは言えず、一層の充実化が必要である。
    また、総量規制によって返済のための借入れができない結果、返済に行き詰まる人たちが出てくることも予想されるが、借入れをしなければ返済ができないということであれば、むしろ早期に適切な相談を受け法的手続等により対処すべきである。
  4. 前記②のヤミ金融がはびこるという主張も、ヤミ金融自体が貸金業法や出資法に違反する犯罪者集団でありながら、そのような犯罪者集団が跋扈することを前提に貸金業者に対する規制を控えるべきとするのは本末転倒であり、ヤミ金融に対しては徹底した取り締りの強化が求められるところである。
    この点、貸金業の無登録営業の罰則を、5年以下の懲役又は1000万円以下の罰金から、10年以下の懲役又は3000万円以下の罰金に引き上げる改正が、すでに2007年(平成19年)1月20日から実施されている。
    また、金融機関は、2008年(平成20年)6月に施行された犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律に基づき、振り込め詐欺やヤミ金融等の犯罪に遭った被害者からの申し出により、当該犯罪に利用された預金口座を迅速に凍結する体制を整えている。
    さらに、北海道貸金業関係連絡会や北海道多重債務者対策協議会などが例年開催され、当連合会を含む関係諸団体間でも、情報提供と連携が図られてきた。実際、北海道警察による検挙などにより、ヤミ金融に関する相談は減ってきているというのが実感である。
  5. もっともこうした取り締りの強化に対し、ヤミ金融は、暴力的取り立てによる摘発のリスクを避けるべく、そうした取り立てをしなくても返済すると思われる相手だけを選んで貸すといった「ソフト」な手口に移ってきている。また、「クレジットカードのショッピング枠現金化商法」、「車乗ったままリース」など、明確な規制がされていない取引形態で、実質的に出資法の上限金利をはるかに超える高率の金利相当額を支払わせる手口も増加している。例えば、ショッピング枠現金化商法とは、クレジットカードのキャッシング枠は使い切っているがショッピング枠が残っているような場合、10万円の商品(実際にはほとんど価値のないもの)をクレジットカードで購入させ、キャッシュバックとして7万円を交付するといったものであるが、これを仮に翌月一括払いとしても1ヶ月で3万円もの「利息」の支払いを余儀なくされるものであり、それを年利に換算すれば500%を超えることとなる。
    かかる商法は、借入れができなくなった多重債務者をさらに食い物にし、追い詰めるだけのものである。
    報道によれば、このような現金化商法を行っている業者に対して、国税当局は、全国一斉に税務調査に乗り出し、実態の解明を進めているとのことである。我々としても、各関係機関との連携をより緊密にするとともに、こうした手口の違法性・不当性についての注意を喚起し、撲滅に向けた活動に努力しなければならない。
  6. 以上のように、セーフティネットの充実やヤミ金融等の対策についてまだ課題はあるものの、これらはそれぞれの問題として対処されるべき事柄であり、紆余曲折を経ながらも、今回の改正貸金業法が完全実施されたことは高く評価されるべきである。
    もっとも、これによって多重債務問題の原因がすべて解決したわけではなく、それ自体が未だ高金利というべき利息制限法の利率引き下げなど、なお引き続き検討すべき課題もある。
  7. 他方で、多重債務事件を処理する弁護士の側の問題も生じていることは誠に遺憾である。
    グレーゾーン金利による過払い金の返還請求事案が数多く発生したことから、「過払いバブル」という言葉に象徴されるように、これを集中して行う一部の弁護士たちが現れ、その業務処理についての問題性が指摘されている。
    弁護士が、過払い金返還請求事件において報酬確保を優先した安易な事件処理をしている例があることや債務が残る貸金業者との事件は引き受けないという例があることが報告されており、また、報酬についての説明が十分になされていないなどの報酬金額をめぐるトラブルも発生している。
    また、弁護士が多重債務事件の依頼を受ける場合には、相談者と個別に面談し、手続や費用についての説明を行った上で、その相談者の資力や生活状況等に応じた処理を行うべきところ、遠方に在住する相談者と面談もせずに依頼を受け、その結果、依頼者から十分に理解できないままに処理がなされたという申し出があった事例も見られる。
    このような事態を受け、日弁連では、2009年(平成21年)7月17日から債務整理事件処理に関する指針を施行して、多重債務事件における処理の適正化に努めているところである。
    当連合会も、多重債務事件の適切な処理に引き続き留意するとともに、弁護士に対する市民からの信頼に応えるべく今後なお一層、努力していく所存である。

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