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道弁連大会

議案第3号(決議)

4会共同提案

行政対象暴力対策の充実と法に基づく行政の実現を求める決議

暴力団員らが、国及び地方公共団体等の行政機関やこれらの職員らに対して、反復・継続して違法、不当な要求を行い、不正に金銭や各種の利権を獲得しようとする行政対象暴力事件が大きな問題となっている。

行政が法令に基づき公正・公平に行われるべきことは、民主主義の根幹をなす大原則である。行政機関が行政対象暴力に屈すれば、この原則は崩壊し、市民の権利・利益が著しく侵害されることはいうまでもない。市民は、行政機関が行政対象暴力に対抗し、法に基づく行政の原則を徹底することを期待している。

しかしながら、全ての行政機関において、このような市民の期待に応える体制を整備しているわけではなく、多くの自治体における行政対象暴力対策は、未だに担当者個人の努力と忍耐に依存しているのが現状である。その結果、現場で対応する職員が孤立し、心理的な葛藤や苦悩に追い込まれ、不当要求行為に屈してしまうケースも少なくない。行政対象暴力に対しては、情報を共有化して組織全体で方針を協議し、これに基づいて組織的に対応することが不可欠であり、事案によっては、弁護士、暴力追放運動推進センター、警察等の外部機関との連携を密にした法的な対処を講じなければ、抜本的かつ効果的な対応は望めない。

よって、法に基づく公正・公平な行政を実現するため、弁護士・弁護士会が行政対象暴力排除に全力を尽くす必要があるとの認識の下に、当連合会は、地方公共団体及び国に対して、行政対象暴力に対し組織的に対応し、これに屈することのない実効的な内部統制システムを構築すること及び組織内での適正な対応が困難な場合には弁護士や弁護士会、警察、暴力追放運動推進センターなど外部の機関と速やかに連携する体制を整えることを求める。

以上、決議する。

2008年7月25日
北海道弁護士会連合会

決議の理由

  1. 行政対象暴力の存在と法に基づく行政の原則
    近年、暴力団関係者などが、公共工事や許認可、福祉行政、物品購入等に関し、行政機関に対して不当な要求行為を繰り返すケースが多発している。
    言うまでもなく、行政は一部の者のためではなく、すべての市民のために、法に基づき公正・公平に行われなければならない。行政対象暴力は、暴力団などの威力を背景にした暴力的・脅迫的な言動ないし詐欺的手法により行政の意思決定を歪め、本来は認められない利益の獲得を目論む行為であって、この利益が現実化すれば、行政は、法に基づかない恣意的かつ不透明なものへと堕落し、一般市民の利益・権利が著しく侵害される。さらに言えば、不当要求者が獲得する利益は税金であり、納税者である市民の利益を損なうだけでなく、かかる資金が提供されることにより、反社会的な不法勢力の財政的基盤を強大にし、一般市民の権利を侵害する行為が拡大再生産されるという悪循環をもたらすものである。
    このように、行政が行政対象暴力に屈して不当要求に応じた場合、行政のみならず民主主義そのものに対する市民の信頼を失墜させることは、まさに明らかなのである。
  2. 行政対象暴力の質的量的拡大と被害の深刻化
    日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会は、平成14年からほぼ2年ごとに、全国暴力追放運動推進センター及び警察庁と協力して、全国の自治体の総務担当、公共事業担当、環境担当、福祉担当及び不動産関係担当の各部局に対するアンケートを実施している。その最新版である平成19年度のアンケート(以下「平成19年アンケート」という)において、暴力団等反社会的勢力から不当要求を受けたことがあると回答したものの割合は33.5%にも及んでいる。この数値は平成17年度のアンケートにおける21.9%という数値から大幅に増加している。
    また、平成19年アンケートによると、不当要求を行ってきた主体については、暴力団よりも政治活動や社会活動を標榜する者が多く、その態様については、機関誌の購読や物品購入の要求に続いて、生活保護等の公的給付の支給の要求が多く、不当要求の主体や態様が多岐に亘っていることが明らかである。加えて、過去1年間に不当要求を受けたとする数値が平成17年度より減少しているのに対し、過去1年間の不当要求に一部でも応じたものの割合が8.6%から 11.2%に増加しているという結果も出ている。これらの点から、不当要求行為が複雑化し、質的に巧妙化した結果、行政機関が拒絶に苦悩しているという実態が窺われる。
    行政対象暴力事案のなかには、行政機関が不当要求者に対し、多額の不正利益を与えていた事例も少なからず存在している。北海道内においては、昨今広く報道されているとおり、滝川市が暴力団員らに対し2年弱の間に生活保護費名下に2億円余を支給した。過去においては、道路用地の取得交渉に当たって、室蘭土木現業所の担当者が、政治団体関係者を称する者の不当要求に屈して、架空の建物に対する補償費名目で1000万円を超える過剰な支出を行った事件もある。さらには、行政機関が被害者になる案件のみならず、公共事業に関連して不当要求を受けた行政機関が、受注者である民間業者に指名停止にすることを暗示して不当要求者に金銭を支払うように指導したという、行政機関が加害者になるケースすら存在するのである。
    これらの行政対象暴力がエスカレートして直接的暴力に及ぶ事例もあり、平成13年には、栃木県鹿沼市において産業廃棄物行政に携わっていた市職員が業者の意を受けた暴力団関係者に拉致殺害された事件が発生し、平成19年には、行政とのトラブルに関し長崎市長を逆恨みした暴力団員が同市長を殺害するという凄惨な事件が起きている。
  3. 政府指針と国・自治体の取り組み
    国は、平成19年6月、企業活動からの反社会的勢力排除について、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(以下「政府指針」という)を取りまとめた。政府指針は、反社会的勢力による被害を防止するために、組織としての対応、外部専門機関との連携、取引を含めた一切の関係遮断、有事における民事と刑事の法的対応、裏取引や資金提供の禁止という5つの基本原則を掲げるとともに、これに基づく平素からの対応及び有事における対応にふれ、さらに内部統制システムと反社会的勢力による被害防止との関係をまとめている。
    この政府指針は企業活動を前提としているが、ここで述べられていることが行政機関の活動にも基本的に当てはまる。例えば、暴力団員は、生活保護受給要件を充足しないことがほとんどであり、かような者に支給を継続していたことが生活保護制度への一般市民の信頼を著しく失墜させることは、北海道滝川市における一連の事件を巡る報道に照らしても明らかであろう。そのため、政府指針の「取引を含めた一切の関係遮断」の精神を生かし、生活保護に止まらず、公営住宅、公共事業、調達契約、公有財産の売り払い、公の施設の指定管理者等から、これらの対象者となるべき要件を定型的に充足しないものとして、暴力団員を排除する条例及びこれを受けた環境の整備が全国的に行われている。
    また、本年4月には、暴力団員による不当な行為の防止などに関する法律を改正する法律案が成立し、指定暴力団の構成員が、行政機関に対し許認可、公共事業、物品調達等において不当な要求をすること等が、同法に定める暴力的要求行為に追加され、中止命令の対象となった。
  4. 組織的対応及び外部との連携の必要性
    行政対象暴力が量的に増加し、質的に複雑・巧妙化するばかりか、被害は深刻化しており、行政においては、これまで以上に適切な対応が求められている。確かに、前述したとおり法令や環境は整備されつつあるものの、個々の行政機関が適切にこれらの手段を使いこなせなければ、行政対象暴力に対応することは不可能である。
    前述した平成19年アンケート結果によると、不当要求行為に応じたとの回答が10%以上もあり、対応方法についても、担当者個人で対応したとの回答が 30%を超えていた。行政対象暴力への対応は、担当者個人において適正に行うことは困難であり、行政機関において組織的に対応する必要があることはいうまでもない。この点、道内自治体の多くが、行政対象暴力への組織的対応のための「不当要求対策要綱」を策定している。しかし、これに基づいた対応により行政対象暴力を制圧した旨の報告数は決して多くない。このような状況から見ても、行政対象暴力の相当数について、担当者個人による対応が事実上強いられているような状況にあり、その結果、不当要求に屈しているケースも少なくないのではないかと考えざるを得ない。この点、浦和地裁平成8年6月24日判決(判例時報1600号122頁)は、町が、虚偽の宅地課税証明書を発行した担当職員に対して損害賠償の求償をした事案であるが、この判決では、当該職員が不当要求に対して上司にも相談できず、たった1人で思い悩んで虚偽の証明書を発行したことが認定されている。同判決は、町が不当要求対策を怠っていたことにつき過失相殺法理を類推適用し、8割の限度でしか求償権行使を認めなかった。このように行政機関は、行政対象暴力への対応を個々の担当職員に委ねるのでなく、これに組織的に対応すべく体制を整えねばならず、不当要求対策要綱を現実のものとするためにさらなる努力が必要である。
    また、行政機関自身では適切な対処を取りにくい行政対象暴力事案については、弁護士、暴力追放運動推進センター、警察等外部機関と連携を密に取って対処する必要がある。全ての紛争は最終的に法令に従って解決される法治国家においては、行政対象暴力事案・不当要求事案についても、最終的に法と正義に基づいて解決するしかないのである。また、行政対象暴力が犯罪を構成するときは、毅然として告訴・告発しなければならないことは明らかである。のみならず、訴訟や告訴・告発等にまで至らない平素の対応においても、暴力団排除条項や不当要求対策要綱の策定等、行政が外部機関と積極的に連携すべき場面は存在している。
    弁護士・弁護士会は、法に基づく公正・公平な行政を実現し、市民の利益・権利を守るため、行政対象暴力排除に積極的に取り組むべきであり、行政機関との連携を強化すべきである。このような立場から、日本弁護士連合会、当連合会、札幌弁護士会は、本年9月5日、財団法人北海道暴力追放センター、北海道警察等とともに、行政対象暴力対策をテーマとした第68回民事介入暴力対策大会を開催する。
    以上が、本決議案を提案する理由である。

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