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道弁連大会

議案第2号(決議)

4会共同提案

高齢者・障がいのある人の「地域で暮らす権利」の確立を求める決議

高齢者や障がいのある人々の「地域で暮らす権利」、すなわち、自分が希望する地域において、適切な社会保障の下で家族・地域住民の理解と協力を得て自分らしく安心して暮らす権利は、憲法13条、14条、22条、25条、国際人権規約をはじめとする国連人権条約・国連諸原則の要請する基本的な人権である。

これらの人々が自分らしく地域で暮らすことができるためには、福祉サービスの充実のみならず、住まい、医療、所得保障、雇用・社会参加、教育、権利擁護、バリアフリー、防災など、生活全般についての支援施策とともに、地域住民や家族の理解と支援が不可欠である。しかしながら、要介護高齢者については在宅生活を支える医療的ケアや福祉サービスが絶対的に不足していること、障がいのある人について「住まい」や福祉サービスが貧困であり、就労の機会や年金など所得保障が不十分であること、及び、これらの人に対する地域住民などの理解が不足していること等があり、在宅生活を断念せざるを得ない実態がある。

更に介護保険制度の見直しにより、要介護度の低い高齢者が各種介護サービスから除外されるなどの問題及び、障がい者自立支援法の下で利用者の負担増等の問題が生じている。したがってこのままでは、これらの人々が地域で暮らすことは、名ばかりのものとなりかねない。

以上をふまえ、当連合会は、高齢者や障がいのある人の「地域で暮らす権利」が、誰もが享受すべき基本的人権であることを改めて確認するとともに、かかる権利を保障するため、国及び北海道そして道内各自治体に対し、次の施策を求める。

  1. 国及び北海道そして道内各自治体は、在宅福祉サービスの拡充のみならず、住まい、医療、所得保障、雇用、社会参加、教育、権利擁護、バリアフリー、防災など生活全般について、地域の特性と当事者のニーズに応じた支援策、体制整備、人材養成を抜本的に強化し、これに必要な財政上の措置を講じること。
  2. 国及び北海道そして道内各自治体は、地域での生活を総合的・継続的に支援することのできる公的な相談・支援機関を、当事者組織、福祉・保健・医療・教育・法律の専門職、地域住民とのネットワークのなかで構築すること。

当連合会は、これらの人々の「地域で暮らす権利」を確立するため、権利擁護の支援や、地域生活における法的支援の諸課題につき、当事者、福祉・保健・医療・教育従事者、地域住民及び行政機関との連携とネットワークを構築しつつ、全力で取り組むことを決意し、以上のとおり決議する。

2007(平成19)年7月27日
北海道弁護士会連合会

提 案 理 由

1. 問題状況
わが国において、「ノーマライゼーション」(障がいのある人や高齢者に関わらずあらゆる人が共に住み、共に生活できるような社会を築くこと)と「自己決定・自己選択」を理念とした社会福祉基礎構造改革の一環として、介護保険制度(2000年)、支援費制度(2003年)が実施された。これらの施策の基本理念は「誰もが自分らしく安心して地域で暮らせる社会を作ること」であった。しかしながら、日弁連が2005年の人権擁護大会の際に実施した全国2000ヶ所の在宅介護センターや地域支援センターに対する調査結果から、

  1. 要介護高齢者については、在宅生活を支える医療的ケアや福祉サービスが絶対的に不足しており、サービス利用の経済的負担も重く、本人の意思決定を支える支援も得られないことなどから、家族や地域住民などが認知症への対応や独り暮らしでの安全確保が難しいことを理由として入院・入所を希望することもあって、やむなく在宅生活を断念している実態
  2. 障がいのある人については、在宅生活を支え、地域での社会参加を可能にするための「住まい」や福祉サービスの貧困が大きく、また、就労の機会や年金などの所得保障の不十分さとともに、地域住民の障がいのある人への無理解も大きく、結局、家族による支援がなければ、地域生活は断念せざるをえないという実態

が各確認された。

2. 北海道における障がい者の状況

1.北海道の人口に占める障がい者の割合

(1) 身体障がい
身体障がい者手帳交付者数は、平成17年度末現在で、287,630人となっており、平成8年度末と比較するとこの約10年間で42,922人増加し、1.18倍となっている。また、北海道の人口に占める割合は平成17年度末で5.1%である。

(2) 知的障がい
療育手帳の交付者数は、平成17年度末現在で37,446人となっており、平成8年度末と比較すると、この約10年間で9,783人増加し、1.35倍となっている。
また、北海道の人口に占める割合は平成17年度末で0.67%となっている。

(3) 精神障がい
保健所で把握している精神障がいのある人の数は、平成17年12月末現在で119,232人となっており、平成8年12月末と比較すると、この約10年間で57,187人増加し、1.92倍となっている。また、北海道の人口に占める割合は平成17年12月末で2.12%となっている。

2. 北海道の入所施設の状況

国が実施した平成16年10月の「障がい福祉サービス利用の実態把握調査」では、道内の入所施設利用者数は、人口10万人当たり219人で、全国平均の人口10万人当たり111人の約2倍となっている。
また、道内の入所施設などのサービス資源は地域的に偏在しており、支援を受けるため、利用者の多くが出身地域を離れて生活を余儀なくされている。

3. 在院患者の状況

道が実施した「北海道在院患者調査」(平成17年6月30日)では、道内の精神科病院に長期入院している患者のうち、受入条件が整えば退院可能な患者は1,718人であった。

※ 以上1. 2. 3. は、北海道障がい福祉計画(第1期平成18年度xA景神・0年度)に因る。

3. 「地域で暮らす権利」は基本的人権である。
要介護高齢者や障がいのある人が地域で暮らすことは、地域社会において、人とのつながりの中で、自分らしい生き方を求めることであり、個人の尊厳・幸福追求権の中核をなす権利であり、かつ、平等原則の具現化である。憲法22条(居住・移転の自由)や憲法25条(生存権)の保障を基礎に、憲法13条(個人の尊厳・幸福追求権)、憲法14条(平等権)等の憲法条項によって保障されている。
さらに、世界人権宣言や国際人権規約、それに基づく国連諸原則においては、明確に要介護高齢者や障がいのある人々が地域で暮らす権利の保障を謳っている。たとえば、社会権規約(A規約)委員会のA規約9条や11条に関する一般的意見第5号において、障がいのある人の社会保障を受ける権利は、施設入所で充足されるものではなく、自ら利用できる住居の保障が必要なことや適切な所得援助や支援サービスの提供をすべきことが明言されている。また、高齢者については、「高齢化に関するマドリッド国際行動計画2002」において「高齢者のための住宅の選択技を拡大し、地域社会において在宅で高齢期を迎えることへの対応の促進」があげられているほか、「高齢者のための国連原則(1991年)」があり、これらの人々の「地域で暮らす権利」を裏付けるものである。
2006年12月に採択された国連・障がい者権利条約では、第3条一般的原則(a)は、固有の尊厳、個人の自律(自ら選択を行う自由を含む)及び人の自立の尊重を各謳い、第19条は、自立した生活(生活の自律)及び地域社会へのインクルージョンとして締約国が特に次のことを確保するよう求めている。

(a) 障がいのある人が、他の者との平等を基礎として居住地及びどこで誰と住むかを選択する機会を有し、かつ、特定の生活様式で生活することを義務づけられないこと。

(b) 障がいのある人が、地域社会における生活及びインクルージョンを支援するために並びに地域社会からの孤立及び隔離を防止するために必要な在宅サービス、居住サービスその他の知識社会の支援サービス(パーソナル・アシスタンスを含む)にアクセスすること。
一般住民向けの地域社会のサービス及び設備が、障がいのある人にとって平等を基礎として利用可能であり、かつ、障がいのある人の必要に応ずること。
以上は、これらの人々が「地域で暮らす権利」を裏付けるものである。

4. 日本弁護士連合会の取り組み
日本弁護士連合会は、第44回人権擁護大会(2001年11月)で「契約型福祉社会と権利擁護のあり方を考える-介護・財産管理・生活支援の充実に向けて-」と題してシンポジウムを行い、これらの日本の福祉とそこにおける権利擁護はどうあるべきかについて、数々の提言をし、さらに、第48回人権擁護大会(2005年11月)では「いつまでもこの地域で暮らしたい-高齢者、障がいのある人が地域で自分らしく安心して暮らすために-」をテーマにシンポジウムを開催し、その成果を踏まえ同大会で、要介護高齢者や障がいのある人の「地域で暮らす権利」の確立とその保障が、わが国における人権課題として今こそ重要であることを確認するとともに、これらの人々の「地域で暮らす権利」を保障することは、すなわち一人ひとりが大切にされる地域社会の実現でもあるとの認識に立ち、必要な支援が保障されるよう、国・地方自治体の公的責任に基づく諸施策の抜本的強化及びこれに対する財源上の措置を求める決議をなした。

5. 道内弁護士会の取り組みと問題意識
当連合会の四つの単位会もまた、この間、各々「高齢者・障がい者支援センター」を設置し、当事者への権利擁護活動の実践を重ねてきた。そしていずれもがこれらの活動を通じて、弁護士が、地域生活のための法的支援として、総合的な法律相談・支援体制の整備、サービスの質向上のための苦情解決機関等での取り組み、成年後見制度など権利擁護制度の担い手の受け皿作りと改善提言、刑事手続きや消費者被害、高齢者の虐待防止等リスクのある様々な場面での法的援助などに全力で取り組む必要があることを深く感じ、同時に、地域生活における法的支援の諸課題につき、当事者・福祉・保険・医療・教育従事者及び地域住民との連携とネットワークを早急に構築する必要があるとの認識にいたった。

6. 第6回高齢者・障がい者権利擁護の集いの開催
本年9月14日には、「生まれ育った地域で生きる」―高齢者・障がい者を支援する地域ネットワークの拡充を求めて―をテーマとして「第6回高齢者・障がい者権利擁護の集い」が札幌において日本弁護士連合会、当連合会、札幌弁護士会が主催し、北海道、札幌市、社会福祉法人北海道社会福祉協議会及び社会福祉法人札幌市社会福祉協議会の共催を得て開催され、触法(累犯)障がい者の自立・支援問題、障がい者の地域支援ネットワーク及び高齢者虐待防止の地域支援について議論する。

7. 当連合会は、予定されている「権利擁護の集い」を成功させるとともに、我々の活動の場であるこの北海道が、先に述べた数々の高齢者・障がい者に対する法的支援を強化し、あまねく高齢者・障がいのある人の地域で暮らす権利が確立された地域となるよう取り組む必要がある。

以 上

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